« 「ケイト・レディが完璧な理由」 やはり周囲のサポートですよね | トップページ | 「軍師官兵衛」 男の憧れの人生 »

2015年1月 4日 (日)

「おやすみなさいを言いたくて」 感情と理性と

主人公レベッカは紛争地域の様子を伝える報道写真家である。
彼女自身が語るように、彼女は若い頃から怒っていた。
世界の各所で行われている非人道的な行為に。
その怒りは彼女を突き動かし、そしてレベッカはカメラという武器を手に入れた。
残虐な行為が繰り広げられる紛争地域で、レベッカはカメラを向ける。
そのカメラによって映し出された光景は、幾人かの人々を動かす力を持っている、そう彼女は気付いたのだ。
だからこそ、自分はカメラでその光景を写さなくてはいけない。
大人になって怒りと付き合うことを覚えたと、彼女は言った。
戦場でむごたらしい光景を目にしても、彼女は冷静である。
まるで武器を手にした戦士のように冷静に、その光景を写し出す。
感情のスイッチを切っているかのように。
彼女は戦場で起きる出来事に関与しない。
彼女は感情をおりまぜずただ事実を切り取る。
しかし、彼女は愛情を持たない女性ではない。
家に戻り、愛する夫と娘たちと過ごす時間は、彼女が妻であり母である顔を持つ。
溢れる愛情を娘たちに注ぎ、夫への感謝を忘れない。
中東での取材の最中。
彼女が何気なくカメラのシャッターを切ったせいで、自爆テロが目の前で行われてします。
当然のことながら取材対象であった女性は、その場でなくとも、必ず死んでいたであろう。
しかし、レベッカがその場でシャッターを切らなかったら、そこにいた周りの人々は死ななかったかもしれない。
レベッカは自分の行為が戦場で与えた影響の大きさに慄くのだ。
彼女は冷静に今までのようにカメラを向けることができなくなる。

レベッカの長女ステフはちょうど中学生くらいか。
母がどういう仕事をしているのかは知っており、いつ死んでしまうかもしれないとしれないと恐怖に怯える子どもの部分と、母親の仕事の意義を誇りに思う大人の心が彼女の中には混在している。
感情の部分と理性の部分といってもいい。
ステフは母が命をかけて戦場に残る姿に泣き帰ってきてと叫ぶ。
しかしまた母しかできない仕事をしているその姿を誇りとも思っている。
それが大きくステフの中で揺れ動く。
母の自分の命を顧みない行動にステフは怒りを覚える。
だから彼女は母親にむかってレンズを向け、シャッターを切り続けるのだ。
カメラは怒りを伝える武器だから。
母親の活動を学校でステフは発表をする。
自分の母親の素晴らしさを皆に伝えようとする、そしてそう思っていることを母親にも。
ステフのように感情と理性が混じり合い、どうしていいかわからないというのは、それこそ人間らしい。

レベッカは感情と理性のスイッチを切り替えられる人であったのかもしれない。
戦場では感情のスイッチを切り、理性のスイッチをいれる。
家では感情のスイッチを入れる。
しかし中東での事件、またアフリカでの出来事、そして家での家族との諍いを経て、彼女の感情と理性のスイッチも混じり合ってきたのかもしれない。
そして再び訪れた中東の地で。
レベッカは娘ステフと変わらない年頃の少女が自爆テロに行こうとする光景を目にするのだ。
彼女はカメラを向けられない。
彼女の母としての感情が、それを冷静に見ることを許さないのだ。

彼女はこれからどのような道を歩むのだろうか。
報道カメラマンを辞め、家族とともに暮らしていくのか。
それとも報道カメラマンを続けていくのか。
それでも彼女の写真は今までとは大きく変わっていくような気がする。
感情がともなった写真になってくるのではないだろうか。

にほんブログ村 映画ブログへ

|

« 「ケイト・レディが完璧な理由」 やはり周囲のサポートですよね | トップページ | 「軍師官兵衛」 男の憧れの人生 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/186553/60921320

この記事へのトラックバック一覧です: 「おやすみなさいを言いたくて」 感情と理性と:

» 「おやすみなさいを言いたくて」 [ヨーロッパ映画を観よう!]
「Tusen ganger god ant」…aka「A Thousand Times Good Night」2013 ノルウェー/アイルランド/スウェーデン 報道写真家のレベッカは家族をアイルランドに残しアフガニスタンの首都カブールにいる。そしてその地で自爆テロに巻き込まれ命を落としそうになるが辛くも助かり病院へ収容される。やがて入院先へ夫のマーカスが迎えにくる。アイルランドへ戻った彼女は母親の死に怯えながら暮す娘たちと向き合うとこになる... レベッカに「トスカーナの贋作/201... [続きを読む]

受信: 2015年1月 9日 (金) 20時52分

» 「おやすみなさいを言いたくて」 [prisoners BLOG]
世界の危険地帯を取材して写真を撮ってくる女性カメラマンと、その無事を祈りながら留守を守っている夫と娘たちのドラマ。 監督のエリック・ポッペがもともと報道カメラマンで、ムービーカメラマンを経て監督になったという経歴の人なので、ある程度は自身の体験も入って...... [続きを読む]

受信: 2015年1月21日 (水) 00時31分

» 『おやすみなさいを言いたくて』 [ラムの大通り]
(原題:Tusen ganger god natt=A Thousand Times Good Night) 「う〜む。 この映画は惜しい」 ----なに、その上から目線の言い方? 「あっ、そうか。 “もったいない”。 いや、これもダメか…。 まあ、話を先に進めるとしよう。 『おやすみなさいを言いたくて』。 これは...... [続きを読む]

受信: 2015年2月23日 (月) 10時59分

» おやすみなさいを言いたくて [I am invincible !]
報道写真家のレベッカ(ジュリエット・ビノシュ)は、危険な紛争地域で取材中に爆発に巻き込まれて重傷を負ったが、アイルランドの自宅に帰ってくることが出来た。 [続きを読む]

受信: 2015年3月18日 (水) 20時11分

« 「ケイト・レディが完璧な理由」 やはり周囲のサポートですよね | トップページ | 「軍師官兵衛」 男の憧れの人生 »