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2014年5月 4日 (日)

「ウォルト・ディズニーの約束」 バンクス氏を救え!

「アナと雪の女王」が世界中で大ヒット、ディズニーの黄金期がまた訪れたとも言える現在、ウォルト・ディズニーと「メリー・ポピンズ」の原作者P.L.トラヴァースとの間にあった物語が作られました。
邦題は「ウォルト・ディズニーの約束」ですが、原題は「SAVING MR.BANKS」で、直訳すれば「バンクス氏の救出」になりますでしょうか。
バンクス氏は「メリー・ポピンズ」の中に登場するキャラクターで、その彼を救い出すというのはどういうこと?
それはこの作品を観ていくうちにわかってきます。
本作はよくよく考えると凝った作りになっています。
それは二つ(もしくは三つ)の物語がこの作品のなかで描かれ、それらが上手に絡み合っているのですね。
一つの物語はトラヴァーズが子供の頃の出来事で、彼女が両親や妹と一緒に暮らしていた頃の話です。
もう一つの物語は、トラヴァースとディズニーが「メリー・ポピンズ」の映画化についてぶつかり合っているときのお話。
三つ目はしっかり描かれているわけではありませんが、「メリー・ポピンズ」という物語そのもの。
トラヴァースとディズニーはお互いに物語を作るクリエーターではありますが、その性格はまるで正反対です。
想像力あふれる物語を作ったトラヴァースですが、実生活では厳格であり、現実主義なところがあります。
彼女の現実主義は、ディズニーの西海岸的な明るさや楽天主義を許せません。
世の中は必ずハッピーエンドをむかえるディズニーの物語のように甘いものではなく、だからこそ子供たちには現実に対処できる術を教えてあげなければいけないと考えています。
現実に目を背け、夢の世界に逃げてはいけない。
トラヴァースがそのように考えるわけは、彼女の子供時代にありました。
彼の父親は子供のような心を持った人でした。
いつも想像の世界に遊ぶギンティ(トラヴァースの子供の頃の愛称)の想像力を彼は認め、それを伸ばそうとし、いっしょに遊んでくれました。
そんな父親をギンティは大好きでした。
しかし子供のような心をもった父親は、厳しい世の中で上手に生きていけませんでした。
彼は銀行に勤めていましたが、そういった世界に馴染めなかったのです。
やがて彼はお酒に救いを求め、やがて体を壊し他界してしまうのです。
大好きだった父が精神を病み、体を壊していく様子をギンティは見ていました。
父親に対して何もできないことを悔やみながら。
幼い心で、ギンティ(=トラヴァース)は現実の世界は必ずハッピーになるものではないという諦め、そして父親に対しての後ろめたさを感じたのでしょう。
だからこそ、彼女にとってディズニーの楽天性が鼻につくのです。
それではディズニーはどうだったのでしょうか。
ディズニーも幼い頃、不幸な時を過ごしました。
子供の頃より厳格でケチな父親のもとで厳しい環境で働かされ続けました。
本作で具体的に描かれているわけではありませんが、そういった環境の中で彼は想像の翼を広げていたのかもしれません。
現実は厳しいけれど、とても楽しいこと、ハッピーなことは想像できる。
やがて彼の想像力、そしてそのハッピーな物語は人々の気持ちを明るくすることに彼は気づいたのでしょう。
だからこそそういったものを作り続けるのです。
人一倍想像力があって、そして不幸な子供時代を過ごした。
トラヴァースとディズニーは実は共通点があったのですね。
厳しい現実に対してのちょっとした捉え方の違いが、二人の性格の大きな違いと現れたのです。
本作を観ていけばわかるように「メリー・ポピンズ」の中に登場するバンクス氏は、彼女の父親そのものと言っていいのでしょう。
メリー・ポピンズには、父親が病気になったときに手伝いにきてくれた頼りになる伯母さんのイメージが強く表れているのでしょう。
おろおろしてしまっている母親に成り代わって、家事を仕切る伯母さんは幼いギンティにとってのメリー・ポピンズだったのですね。
だからこそトラヴァースは「メリー・ポピンズ」の登場人物たちを「私の家族」と呼ぶのです。
トラヴァーズが「メリー・ポピンズ」の映画化を拒み続けたのは、彼女が思っていたディズニー流の作り物めいた魔法で描かれたとき、父親や家族たちの存在も何か嘘くさいものになってしまうような気がしたのではないでしょうか。
また可哀想な父親の映し姿であるバンクス氏を描くことは、またもや父親の不幸と悲しみを繰り返し体験することになるかもしれないという思いもあったのかもしれません。
なにより父親が哀しい人であるということが定められてしまうというのが辛かったのでしょう。
しかしディズニーは「バンクス氏は大丈夫だ」とトラヴァースに言います。
バンクス氏はただの嫌みな銀行家ではない。
本当のところ心根はやさしい人なのだ。
バンクス氏にも幸せになってほしい。
トラヴァースにとっても、ディズニーにとっても自分の作ったキャラクターは自分たちの家族そのもの。
だから彼らにも幸せになってほしい。
それは二人にとって共通の想いだったのですね。
だからこそ「SAVING MR.BANKS」なのです。
バンクス氏の人生を哀しいもので終わらせるのではなく、バンクス氏が幸せになれるような結末を用意する。
それはトラヴァースにとって、バンクス氏の人生を哀しいものではなくすることは、彼女の父親の人生もただの不幸であったわけではないと認識できることにつながったのかもしれません。

正直言うと「メリー・ポピンズ」はしっかりと観たことはないのです(劇中歌は何度も聞いたことがありますが)。
今度ちゃんと観てみようかな。

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コメント

sakuraiさん、こんばんは!

脚本とても上手でしたよね。
考えて構成しているな、というのが感じられる作品でした。
そういう点がとてもプロっぽいなという印象がありました。

>反転、直ったようです。
よかったです!
なんだったんでしょうね・・・。

投稿: はらやん | 2014年5月 9日 (金) 23時22分

すっかり、「メリー・ポピンズ」を見た気になりました。
とってもうまい脚本でしたね。
複雑な物語をうまーく構成して、すとんと落としどころを持ってきて、すっきり見せた。
役者もベテランどころで安心して見れる・・って感じでしょうか。
欲を言えば、安心感がありすぎたところかも。

反転、直ったようです。
普通に見れます。

投稿: sakurai | 2014年5月 8日 (木) 12時25分

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