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2013年12月 8日 (日)

本 「桜ほうさら」

その人の人生を大きく変えてしまう出来事が起こってしまうということがあります。
主人公笙之介は地方の小藩の下級武士の家でしたが、父親が汚職で断罪され、彼も未来を閉ざされ、流れて江戸に至りました。
もともと武芸は達者ではありませんが、学問について優秀であった笙之介は江戸で写本の仕事を生業とし、生活をしていました。
江戸で市井の人々と交わりながら、徐々に普通に生活を営んでいくようになりますが、それでも彼の心のなかには父の汚名をそそぎたいという想いはずっとありました。
そのためか、笙之介の生活はただ生きている、といったような感じで無気力さのようなものがあったようにも見えます。
しかし彼は和香という女性と出会い、彼女の賢さ、強さを知るにつれ、恋心のようなものを持ちます。
それとは並行し、父の死の謎も次第に明らかになっていきます。
そのような出来事を通し、笙之介の人生は再び歩みをはじめていこうとします。
笙之介には兄がおり、その名を勝之介と言いました。
彼もまた父親の罪のため、出世の道を閉ざされていました。
もともと勝之介は武芸も秀で、下級武士であった父親や、武士としてあまりに弱々しい笙之介のことを蔑んでいたところがあります。
しかし勝之介は父親の事件により、世の中を恨みがましい目で見るようになりました。
その恨みがましい気持ちは、本人から出たものでありながらも、本人自身を縛るほどに強いものになっていきました。
恨みといった強い感情は得てしてその人自身の人生すらも束縛してしまうものです。
人生にはいろいろな出来事があります。
しかしその出来事の見方は幾通りもあって、その見方によってその後の人生も決まってしまうのかもしれません。
兄である勝之介は恨みにずっと縛られてしまった。
弟である笙之介は無気力的になっていた中で、人々と出会い、その事件のことを素直に受け止めるようになった。
タイトルの「桜ほうさら」はものがたりの中ででてくるオリジナルの言葉です。
もとは山梨の方言の「ささらほうさら」でいろいろあって大変なことのことを言うそうです。
それをもじって和香は「桜ほうさら」と言いますが、本の一文字を変えただけでなにか、語感も変わりなにかゆったりとしたような感じを受けるようになります。
人生の出来事もほんのちょっとずらしてみれるようになれば、ネガティブな感情に囚われすぎず、もっと穏やかに受け止められるようになるのだろうと思いました。

「桜ほうさら」宮部みゆき著 PHP研究所 ソフトカバー ISBN978-4-569-81013-3

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» 宮部みゆき「桜ほうさら」 [読書と映画とガーデニング]
PHP研究所2013年3月 第1版第1刷発行605頁 父の汚名をそそぎたいそんな思いを胸に秘め江戸に出て来た古橋笙之介人生の切なさ、ほろ苦さ、人々の温かさを知り、恋や挫折を経験して人間的成長をとげていく 宮部さんの時代物で男性が主人公というのは珍しいのでは...... [続きを読む]

受信: 2013年12月14日 (土) 11時50分

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