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2013年11月25日 (月)

「四十九日のレシピ」 与えることによる幸せ

自分が幸せになろうとして、人から奪おうとする人がいます。
主人公百合子の夫を奪おうとする女もそういうタイプの一人でしょう。
この登場人物は非常にエキセントリックな感じ(この人物に共感する人はほとんどいないでしょう)で描かれていますが、これほどではないにせよ、このように「奪う」ことにより幸せになろうとするタイプの人がいるのは確かです。
ただ彼女のような人とは逆の行為、つまりは「与える」ことで満たされる人もいます。
人に与えることにより、自分の存在価値、自分がいる意味を感じられる。
百合子などはそちらのタイプだと思います。
夫の母親の介護もし、夫の世話もする、ただそれをしなくてはいけないとやっているのではなく、そのように人に与えることで満たされていたのだと思います。
与え続ける彼女にとって唯一「得たい」存在、それは子供なのですが、それは得ることはできません。
子供は自分にとって究極的に自分を与えるもの(だからこそ幸せを感じる)ですが、だからそれを得られないことは自分が存在する意味を見いだせないと彼女は感じてしまったのかもしれません。
そしてそれだけでなく、自分の家庭すら人に奪われそうになる。
自分の存在価値すら感じられない、深い喪失感を味わったのかもしれません。
離婚の危機をむかえ、彼女は実家に戻ります。
実家では、自分を育ててくれた母親の乙美(実は血は繋がってない)が亡くなったばかりでした。
母親の遺言は、自分の四十九日にはみんなで大宴会をしてほしいということ。
そして彼女は自分が描いたイラストの入った「暮らしのレシピカード」を残していました。
百合子と父親は母親の願いの通り大宴会を開こうと準備をはじめます。
その中で百合子は母親の生涯を記した年表を作ろうとしますが、改めて作ろうとすると母親の人生が空白であることに気づきます。
自分は子を得ることはできず、連れ子(つまりは百合子のこと)を育てる人生は空しいものではなかったのかと。
そこに子供ができない自分を重ね合わせたのかもしれません。
与えるだけ与え、唯一得たいものは得られなかった人生。
しかし、そんなことはなかったことに百合子は気づきます。
乙美はずっと若い頃からボランティアの仕事をしており、老人や社会に馴染めない子供たちの世話をずっとしてきていました。
百合子以上に人に何かを与え続けてきていた一生だったと言っていいでしょう。
四十九日の大宴会の日、百合子の家には乙美がかつて世話をした人々が大勢訪れます。
そして空白ばかりが目立っていた乙美の年表にそれぞれが彼女との出会いを書き込んでいきます。
乙美の人生は与えるばかりの人生ではありませんでした。
人々の出会いを彼女は得て、彼女は満たされた人生を過ごしていたのです。
自分の子を得ることはできなくても、手をかけて育てた子を得、そして彼女を慕う人々を得、確かに乙美の存在価値はあったのです。
そういう乙美の生き方を知り、百合子も自分の人生は捨てたものではないと感じることができたのでしょうね。

百合子の父親である良平も妻を失い深い喪失感を感じます。
彼は乙美に与えられる側であったんですね。
良平は妻を失ったことで、自分が妻に何も与えられてきていなかったと悔やむのです。
けれど、そうではなかったということを良平も気づくことができたのだと思います。
良平は乙美と結婚して、彼女に家庭というものを与えてあげた。
与えることができる夫を得て、世話をできる娘を得て。
それが乙美にとって幸せだったのだと。
何も与えられなかったのでなかった。
確かに妻に幸せを与えることができたのだと。

本作は父親と娘がそれぞれに喪失感を味わい、そしてそこから立ち直る過程を描きます。
喪失感は簡単には塞がらない。
それが癒されていく時間が四十九日という日数なのかもしれません。

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コメント

sakuraiさん、こんばんは!

そうですね、母親は与えるとか与えていないとかそういう意識はないでしょうね。
でもそうしたくてもそうできない人もいて、なかなかそういう視点で描かれる作品もないので共感性がありました。
私も子供いないですし。

投稿: はらやん | 2013年12月 8日 (日) 16時47分

愛とは与えるものである・・・とは、よくいったもんですね。
母親なんてのは、与えてるなどとは微塵も考えずに、ひたすら与えてる。それによって、報われようなどとも一切考えず。
それがごくごく普通だった世の中が、なんか遠く感じられて仕方がないです。

投稿: sakurai | 2013年12月 7日 (土) 18時02分

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