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2013年10月25日 (金)

「人類資金」 未来の可能性

福井晴敏さんが原作で、阪本順治監督というのは「亡国のイージス」以来でしょうか。
本作の原作小説は映画の公開に合わせて同時期にいきなり文庫でリリースされています。
また福井さんは映画の脚本も書いているので、彼のカラーが強く出ている作品ではないかと思います。
福井さんの作品はデビュー作の「亡国のイージス」から、多くの作品に共通した構図があるように考えています。
世界は戦後ひとつの強い枠組み(本作では「ルール」=資本主義と言われているもの)で形作られていて、アメリカや日本といった国々はそのルールに基づいて運営されている。
福井さんの作品ではそおルールを守る人々が「大人」と象徴されることが多く、そのルールに基づいて育てられ教育された子供たちがいます。
しかし子供たちは決められたルートではなく、自身の可能性(これは福井作品での重要なキーワード)に気づき、その可能性を叶えるために、大人たち(ルールを守る側)へ挑むのです。
初期作品にはその作家の個性が出るものと言われますが、「Twelve.Y.O」「亡国のイージス」はまさにこのような物語です。
過去から続く現在の既存価値に対して、未来の可能性が戦いを挑むという物語は理想論的であり、ある種の青臭さを感じたりもします。
福井さんは「ガンダム」に強い影響を受けたと公言していていますが、福井作品の骨格は「ガンダム」の「旧人類」VS「ニュータイプ」という構図からきているのかもしれません。
さきほど書いた青臭さというのは、「ガンダム」という物語にも共通している感じがするのですよね。
彼が小説版を書いている「ガンダムU.C.」でも「ユニコーン=可能性の獣」というフレーズが多く出てきているように、人々が発展しよりよい存在となっていく可能性を、受け入れる者、否定する者がおり、彼らの戦いが描かれます。
これはまさに「ガンダム」の物語であり、福井晴敏の構図でもあるのだと思います。
福井作品は若者が、既存の価値を守ろうとする大人たちへ戦いを挑む物語だと書きましたが、その戦いの結末は必ず成功するわけではありません。
既存価値のルールに勝てないことが多いのです。
が、負けているわけでもなく、若者の未来、可能性というものへの希望が残った終わり方になっています。
本作も既存のルールに戦いを挑む若者たち(Mや石、そして真舟も)の戦いを描きます。
そして彼らは苦戦しながらも、未来の可能性を勝ち得ます(ただし既存勢力も完全には「負けていない」)。
これは福井作品では珍しい結末かなと思いました。
未来の可能性が勝つということにより、福井作品の持つ青臭さ感はより強く感じる気はします(決して否定的な意味ではなく)。
「ガンダム」を観ていた時よりだいぶ年をとってしまった自分としては、「そんなに現実はうまくいかないよ」と思ってしまったりもするわけですね。
しかし理想を直接的に描かなければならないほどに、現実の社会は既存価値によってより閉塞感が出てきてしまっているということかもしれません。

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コメント

sakuraiさん、こんばんは!

福井さんの作品のキャラクターはいい意味でも悪い意味でもアニメ的であるかなとは思います。
生々しい人間ぽさというのはそれほど強くなく、キャラクタライズされているので、読みやすい・観やすいって感じがあるかなと。
そのあたりの感じがテーマとちょっとアンマッチなところはあったかもしれません。

投稿: はらやん | 2013年11月21日 (木) 20時28分

もっと素直に言いたいことを表してくれると、見る方も読む方も素直に受け止められるのですが、なんかひねくれてますよねえ。
阪本監督を応援しているので、いいものを作ってもらいたいと思うんですが、福井さんとは合わない気がします。
もっと人間の暗部に切り込んだ・・・みたいなのがいいと思いますわ。
って、映画の感想になってないです。

投稿: sakurai | 2013年11月19日 (火) 12時31分

みすずさん、こんにちは!

たしかに金融のことだったので、馴染みがないとわかりにくいところもありましたね。
でも細かいところよりは大きな流れを抑えて観ていれば大丈夫な気がします。

投稿: はらやん | 2013年11月 9日 (土) 09時34分

こんばんはー^^

なんか難しい映画でした^^;
良くわからないうちに見終わった感が・・・
はらやんさんの記事読むと、福井さんって方の話の作り方でなるほどーって思っちゃった。
しかし、もうちょっとド素人にもわかりやすい話にしてくれたら良かったのにな!って思いました^^

投稿: みすず | 2013年11月 7日 (木) 19時40分

みぃみさん、こんばんは!

この映画は資本主義や金融システムいう作られた仕組みで、格差が生じ拡大していっていることをひっくり返すためにその金融システムを利用しつつ、理想を実現するという話だったと思います。
エンドロール後の映像は、既得権益側をぎゃふんと言わせたものの、それでもこのシステムは強力で、Mらの理想すらも呑み込んでいってしまうということを示したのかなと感じました。
お金という仕組みをなくすわけにもいかず、システムの根本は変えられないのでなかなか難しい問題ですよね。

投稿: はらやん | 2013年10月30日 (水) 20時22分

世の中、そんなに甘くない。私もそう思いました。
だから、あのエンドロール後の映像だったのかな?とも。お金さえ払えばなんとかなる世の中ですが、
お金なんて紙切れ、
何か欲しいならなにかを持ってる必要がある時代がくるかもしれないし、
自分のいる豊かな環境はいつ誰にとって変わられるかも知れない。
大事なのは「金策」よりも「友好」や「絆」。
でも、「友好」を得るためのきっかけにしたのは、
株価操作という「お金」。
ぐるぐる回ってるや~ん。。。難しい。と、思いました。

恵まれすぎて、刹那的、短絡的、受動的な考えが蔓延した世の中は寂しいですよね。。。

投稿: みぃみ | 2013年10月28日 (月) 10時02分

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