本 「戦略論の名著 -孫氏、マキアヴェリから現代まで-」
タイトルにあるように古今東西で戦略論において名著と言われる著作について解説されている本です。
孫子にしてもマキアヴェリにしても、書かれてから長い時を経ても読まれているということから、そこには現代にも未だに通じる真髄があるからでしょう。
この本は基本的にそれぞれの著作で書かれている戦略論についての解説であって、現代(例えばビジネス)にも通じるような形に翻訳されているものではありません。
ただし、そのように読む側が読み解いていくことはできると思います。
こちらでは12冊の戦略書が紹介されていますが、それらに共通している点というと過去の事例を分析し学ぼうとしていることです。
特に失敗事例を分析することにより、やってはいけないこと、そして持つべき戦略の姿などを解き明かそうとする姿勢が共通しています。
もちろんそれぞれの著者によって導きだす戦略は異なるわけですが、その過程は過去の事例から学ぶということなのですね。
これをビジネスという視点で観てみましょう。
会社では日々マーケティングと称して新しいことに取り組んでいきますが、意外とやったこと(成功事例も失敗事例も)についてしっかりと振り返っていることはなかったりします。
そういう振り返りがないなかで、戦略というものはほんとうは立てられないのですね。
過去に学ぶということで、失敗しないようするやり方は浮かび上がってくるものです。
あとこの本で紹介されている戦略論の中で特に近代〜現代にかけて「大戦略」という言葉が出てきます。
これは戦略の上に位置する概念であり、どちらかというと軍事だけでなく政治の領域に踏み込む概念です。
クラウゼヴィッツは「戦争が他の手段を以ってする政治の延長」と言いましたが、ここでいう「政治」は「戦争」の一つ上の概念、いわば「大戦略」です。
これを企業活動という視点でみると「大戦略」は「経営方針」と見ることができるかと思います。
「経営方針」に従い、個々のマーケティング戦略が組み立てられます。
この「経営方針」が曖昧であったり、また「経営方針」と「マーケティング戦略」がリンクしていないとうまくいきません。
戦略というのは戦争をするときの戦い方の方針のことではありますが、孫子の言葉にもあるように戦争をしないようにすることも戦略です。
孫氏は戦争をすると金がかかる、そのため勝った国も経済的に疲弊してしまう、だから戦争を避けながら自分たちの強固な位置を保つのが上策だと言います。
確かにマーケティングでも競合他社と激しい争いになったとき、マーケティング活動費(広告や販促)などが多額になり、また値引きなども行われると、たとえシェア争いで勝利したとしても利益はあまりでないということになりかねません。
自分たちが強い領域において圧倒的な強さを競合に見せつけ、参入の機会を与えないというのも孫子的に戦わないようにする戦略と言えるかもしれません。
逆に攻める側としては、広告等をふんだんに使った空爆戦以外にも、毛沢東的な遊撃戦的な戦いもあるかもしれません。
このように戦争のための戦略論ですが、それを読み解いていくとマーケティングにも活かせるところがいくつもあるような気がします。
「戦略論の名著 -孫氏、マキアヴェリから現代まで-」野中郁次郎編著 中央公論 新書 ISBN978-12-1-2215-8
| 固定リンク
コメント