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2013年3月 8日 (金)

「遺体 明日への十日間」 まだ2年、もう2年

観ている間、劇場で鼻をすする音が至る所でしていましたが、花粉症のシーズンになったからというわけではないのでしょう。
かくいう自分も鼻をすすっていたひとりでした。
もう少しで東日本大震災から2年。
2年が経ち、やはりこういう映画を観ると当時のことを生々しく思い出したりもするわけです。
脚本や演技や、作品の出来がどうこうということではなく、演技であり劇化された映画であるとはいえ、やはりあの震災に見舞われた方々の姿を観ると、心は動揺し、こみ上げてくるものがあるわけです。
まだ2年なのですね。
でも、東京で暮らしていると普段の生活は以前のように戻り、なんとなく日常が過ぎているようにも感じます。
もう2年も経ってしまっていて、次第に震災のことが風化し始めているようにも感じます。
そういった時期にこのような作品を作ることは意味があるように思います。

さきほど書いたように作品の出来がどうこうという評価は個人的にはなかなかしづらいなと思っています。
ですので、今回は作品を観て感じたことを、散文的に書いていこうと思います。
本作で描かれるのは、震災直後から急遽遺体安置所となった学校で働く人々です。
医者やボランティア、市の職員、葬儀社の社員、彼らも被災地で暮らしていた人々であり、災害から生命が助かった方たちです。
職務として遺体を取り扱う彼らは、未曾有の災害を前に声もでません。
なかでも若い市職員及川、そして優子は大きく動揺します。
及川は友人の行方が不明になり、まさに茫然自失の体となり仕事にも手がつかなくなります。
優子は遺体や遺族の方の姿を見て、「自分なんかが生きていいの?」と泣き崩れます。
彼らの姿にはリアリティを感じました。
若いがゆえに人生の経験が少なく、大きな出来事を受け止めきれない、そんな感じが伝わってきました。
もし自分がその場にいたら同じように何もできない状態になってしまったのではないかと思います。
医師の下泉、歯科医師の正木は、遺体の確認の作業を休むことなく続けます。
彼らがみる遺体の中には彼らの知り合いの姿もあり、彼らも動揺はしますが、亡くなった方のため、遺族のためにプロの責任感を持ってその仕事を淡々と続けるのです。
彼らの姿には大人を感じました。
そしてボランティアで遺体安置所を管理した相葉からは、起きてしまったこと自体にくよくよするのではなく、いかに前に進むのかという人としての大きさを感じました。
彼は「やるべし、やるべし」と口にしますが、大きな出来事に呆然とするより、床をきれいにすること、遺体を大切に扱うこと、そういった目の前にある些細だけど自分ができることを少しずつやっていくことで前に進むことができるということを知っているのですね。
そういった大人の姿を見て、誰かに言われるでもなく、自然に動き始める及川や優子の姿にじんときてしまいました。

相葉が「ここにあるのは死体じゃないですよ、ご遺体ですよ」と言う場面があります。
この言葉を聞いて、何か日本人の死生観のようなものを感じました。
死体という言葉にはとても「物体」という感じがするのですね。
でも「ご遺体」という言葉には人としての尊厳が感じられます。
遺された体、ということですよね。
映画「おくりびと」や、先日読んだ「エンジェルフライト」は、遺体を取り扱うお話でした。
日本人というものは遺体をとても丁寧に扱おうという民族なのだなと思います。
生きていた人へ敬意をはらい、その方の魂が肉体を離れても、遺された体を大切に扱うという気持ちがあるのかもしれません。
乱暴に扱うというのはそれをもう物体としてしか見ていないということ。
そこに人の尊厳を見るのであれば、おのずと丁寧に扱うわけですね。
遺体にお化粧をしたり、話しかけたりすることによって、生きているかのように扱う。
そういったことはその人が時間の中であるときだけ存在しただけというのではなく、その人の生が、生きている人の中で続いていくといったことに繋がるのかなと思ったりもしました。
そして生きている人の中でも故人が生きていると感じることにより、生きている人もよりよく前向きに生きていけるのではないかと思ったのですね。
そういった日本人の精神というのは、やはりとても良いものだと感じました。

ひどくとりとめのない話になりました、今回は。

監督と脚本と務めたのは君島良一さん。
君島さんというと「踊る大捜査線」のイメージが強いですが、監督される作品は意外と社会派なものが多いんですよね。
「容疑者 室井慎次」も「踊る」シリーズの中では社会派的な感じですし、「誰も守ってくれない」はまさに社会派という感じです。
本作は映画的にテクニカルにするのではなく、オーソドックスに淡々と撮っていた感じがします。
そういった姿勢に、大震災を映画化することに対する誠実さを感じました。

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コメント

ミス・マープルさん、こんにちは!

僕もこの映画を観たときは涙が止まりませんでした。
どうしても年月が経つと風化してしまう記憶ですが、そうさせないためにもこういう作品は存在価値がありますよね。

投稿: はらやん | 2015年1月31日 (土) 12時26分

TBありがとうございます。
この映画は涙が止まりませんでした。
西田敏行が遺体に接するときの優しさが忘れられません。
忘れてはいけない、風化させてはいけない災害ですね。

投稿: ミス・マープル | 2015年1月30日 (金) 08時55分

sakuraiさん、こんにちは!

この時期にしっかりと誠実に作ったのはすばらしいと思いました。
西田さんは故郷も東北ですから思い入れもあったのかもしれませんね。
僕も予告でぐっときて、この映画を観ようと思いました。

投稿: はらやん | 2013年3月14日 (木) 09時50分

今このときに、難しい題材にまっすぐに臨んだ姿勢がお見事でしたね。
西田さんじゃなかったら、ここまで迫るものにならなかったかも・・と思わせるくらいの渾身の姿でした。
ひとつ難点は、予告で見せすぎた。
予告で既に号泣してしまってました。。。。

投稿: sakurai | 2013年3月14日 (木) 08時01分

kiraさん、こんばんは!

作り手の誠実さは僕も感じました。
未曾有の災害をただ悲劇として描くのではなくて、そこにいる人々に寄り添うようなスタンスでしたよね。
僕もこの映画は観るのに勇気がいるというか、重くなったりしたらどうしようかと思っていたのですが、観てよかったです。
おっしゃるようにたくさんの人に観てもらいたいですね。

投稿: はらやん | 2013年3月 9日 (土) 21時46分

震災自体が、うそのような・・あの日目に飛び込んできたのがあまりに凄惨な映像だった為、
なんとなく、重く悲しいという予感で、避けられるとしたら、・・・これはあまりにも勿体無い。
津波の映像はないし、本当に制作陣の誠実な取り組みが感じられる作品だから。。
「震災」「復興」という文字がTVに躍っているから、風化はありえないとかっていうんじゃないですよね。
あの時の、
大切なものを総て奪われた方が、残された方が、どんな日々を送ったのか、、、
こころを添わせてみることのできる作品でした。
是非、色んなところで上映を続けて、沢山の方に観ていただきたいです。

投稿: kira | 2013年3月 9日 (土) 11時58分

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