本 「旅猫リポート」
有川浩さんの「空飛ぶ広報室」のレビューでは、「この時点において有川浩さんのひとつの集大成」と書いたのですが、本作については新しい方向性を見せようとしている作品と言えるような気がします。
キャラ立ちだったり、ベタ甘だったりするところは有川さんの特徴のひとつので、アニメ的、ライノベ的とも言えるわかりやすさに繋がったりします。
たぶん有川さんの作品は、小説慣れしていない方にも読みやすいものとなっていると思います。
しかしたぶんに多くのライノベが、わかりやすいキャラクター造形などになっていて、今までのアニメやマンガのパターンに陥ってなにも残らないものであるのに対して、有川作品はそういうところはないのですよね。
読みやすいのだけれど、なにかほんわりと暖かいものが残るというか。
有川作品には優しさというか、人を思いやる気持ちみたいなものを感じるんですよね。
本作はいわゆるキャラ立ち的なところはおさえつつも、有川さん特有のほんわりとした暖かさみたいなものを前面に出してきた感じがします。
そして今までにないところとしては「死」というものをけっこう真正面に捉えているということですね。
有川作品は基本的にハッピーに終わる感じがあるのですけれど、本作ではしっかりと「死」が描かれます。
物語の途中からそういう予感はあってザワザワした気持ちで読むのですが、有川さんの作品だから、うまくいくに違いないと思って読んでいったのですけれども。
でもその「死」は悲劇ではなくって。
本作主人公である猫、ナナといっしょに、読み進めるに従い、その「死」を受け入れられるようになっていくんですよね。
これはやはり有川さんならではのほんわりとした暖かさ。
表紙のデザインなどのイメージもあるんですけれど、有川さんの今までの作品がどちらかというとアニメ的な感触があったのに対し、本作はなんか童話的というんですかね、そんな感じがしました。
今までの作品で言うと「阪急電車」が一番感触が近いかな・・・。
有川さんらしくも、でも今までとは違う側面も感じた作品だと思いました。
「旅猫リポート」有川浩著 文藝春秋 ハードカバー ISBN978-4-16-381770-5
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