「大奥~永遠~[右衛門佐・綱吉篇]」 役割ではなく自分自身を
二宮和也さん、柴咲コウさん主演の前作の「大奥」は酷評したので、この作品は観ようかどうしようか迷っていたのですが。
観てみた感想としては、今回は意外と良かったです。
前作は将軍が吉宗の時代でしたが、本作はそれよりも前の綱吉の時代となっています。
「男女逆転」という設定はそのままに、前作の前の時代を描いているということです。
前作を酷評したのは、「薄っぺらさ」を非常に感じたからでした。
このシリーズの「男女逆転」という基本設定は、もともと非常にフィクション性の高いものです。
ですから画面やドラマの作りが薄っぺらいとその基本設定自体が、とても嘘くさく、安っぽく感じられてしまうのです。
そういう状態だったのが前作でした。
そして本作ですが、物語自体がかなり大人寄りになったということ、そして登場人物に演技が巧みなベテランを配したことにより、前作のような薄っぺらく感じてしまうことを防いでいます。
物語は基本的にはメロドラマであり、これも安っぽくなる危険性を孕んでいるのですが、この点についても演技者の存在感で救われています。
その点においてやはり本作は菅野美穂さんの存在感が大きかったかなと。
役柄的には少女時代から老女時代までを演じなくてはいけないということ、また濡れ場的なシーンも多いといこともあり、その辺の若手女優では務まらないかなと思いました。
本作で菅野さんが演じる綱吉については、彼女の時間の経過を表現することに意味があるので、そういう点で思い切りのいる役であったと思います。
人というのはその人個人ではなく役割でいろいろなことを期待されてしまうものです。
それは仕事上の役職であったり、性別であったり。
本作においての綱吉という人物は、将軍という役職であるということ、そしてまた子供を産む女であるということにおいて、周囲から大きな期待、そしてプレッシャーを感じながら生きているのです。
その期待やプレッシャーというのは、綱吉という人物ではなく、将軍そして女であるという立場に対するものなんですね。
特に綱吉は世継ぎを失ったため、子を産むという機能を持つ「女」として期待されるわけです。
彼女自身を愛しているのは、実の父親である桂昌院であり、また幼馴染である吉保だけなのです。
二人にしても大奥の中での権力争いの中、やはり綱吉を女であり、将軍でありといった「機能」だけで見ることあるわけですね。
「役割」を全うするために夜な夜な彼女は男に抱かれるわけですが、そこには愛はありません。
まさに求められているのは「機能」のみなんですね。
誰も自分自身を見てくれていないという、孤独感を綱吉は味わっていたに違いありません。
そしてまた綱吉の相手役となる右衛門介も同じように京都時代は男子しての「機能」を期待され、それにより家族を養っていたわけです。
彼は同じ境遇である綱吉に惹かれるわけですね。
けれども右衛門介自身も男子としての「機能」だけで評価をされるのには嫌気があったのかもしれません。
大奥という場において、美貌などではなく、自分の才覚でのし上がり、最高の座に居続ける、それこそが自分自身を評価されることだと思っていたのかもしれません。
惹かれてはいても、綱吉の相手となってしまった時にはその「機能」だけで評価されることになってしまうかもしれないという恐れがあったように思います。
そして出会ってから何十年もの時を経て、初めて二人は結ばれます。
二人は初めて、相手自身を愛し、自分自身を愛されるという至福の時を持つことができたわけですね。
ひとときであろうと、それは永遠に値するということなのかもしれません。
前作「大奥」の記事はこちら→
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まあ、別に原作読んでないし
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元禄。生類憐れみの令。なんという幸せ。 [続きを読む]
受信: 2013年6月15日 (土) 16時50分
» 13-105「大奥 ~永遠~[右衛門佐・綱吉篇]」(日本) [CINECHANが観た映画について]
夜の底を這いずり回るネズミや
時は元禄、五代将軍・徳川綱吉の時代。
三代将軍・家光の時代に誕生した男女逆転の世も定着し、美しく聡明な綱吉の才覚によって徳川の治世は最盛期を迎えていた。
そんな中、側室候補として京より呼び寄せられた貧しい公家出身の右衛門佐は、自らの野心を実現すべく綱吉に巧みに取り入り、大奥総取締となって権力と富を手にしていく。
やがて、綱吉の一人娘・松姫が急死したことで正室と側室の後継者を巡る争いは激しさを増し、綱吉自身も世継ぎ作りに専念させられ、政治から遠...... [続きを読む]
受信: 2013年6月16日 (日) 11時54分
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上映会場: アスミック・エ...... [続きを読む]
受信: 2013年6月18日 (火) 08時06分
» 大奥~永遠~ [愛猫レオンとシネマな毎日]
男女逆転「大奥」の第2弾。
二宮さん主演の前作より過去にさかのぼり、綱吉の時代が舞台になってます。
今回は、大奥プロジェクトなるものによって、テレビドラマで男女逆転大奥が
どのようにして誕生したのかを描き、映画では、その後の時代を描いているの。
さ~すがTBSさんだわ、商売上手!
そして注目すべきは、境雅人さんが、時代は異なるけど、同じ大奥総取締を
演じているの。
でも、キャラクターは真逆。見比べて見たら、面白いと思うわ。
残念ながら、ワタシはテレビ版は2回しか見れなかったので
その面白さが、... [続きを読む]
受信: 2013年7月11日 (木) 22時19分
» 大奥~永遠~ 右衛門佐・綱吉篇 [のほほん便り]
今をときめく、堺雅人、菅野美穂夫妻の出会い作品となった訳ですが、今みると、(かなり変化球の、究極愛を描いてる分)意味深… (^。^*)思えば、ドラマ版で多部チャンと演じた愛も、屈折がありましたが、双方、少女漫画・原作らしい「まっすぐさ」が光ってた気がしました。しかし、田中聖が、年を経て西田敏行になるとは…ちょっとした、御愛嬌?!ドラマから見てた分、生類憐れみの令、事情でリンクした時は「をを!」だったのでした。キャスティングの豪華さもさすことながら、衣装もセットも豪華絢爛。個人的には、イケメン鑑賞的に... [続きを読む]
受信: 2013年12月 4日 (水) 11時30分
» 映画『大奥 〜永遠〜 [右衛門佐と綱吉編]』★堺・右衛門佐の“あの夜”に溺れる……苦しゅうない(*^_^*) [**☆(yutake☆イヴのモノローグ)☆**]
作品について http://cinema.pia.co.jp/title/158527/
↑ あらすじ・クレジットはこちらを参照ください。
男女逆転大奥は、荒唐無稽なとんだ茶番劇かもしれませんが ^^;
豪華な虚飾のなかに、着飾れない生なましい愛憎を、
現代の価値観を越えて、ひととき、幻惑のなかに感じられるので
とても、溺れたい世界であります。 (*^_^*)
&nbs..... [続きを読む]
受信: 2013年12月28日 (土) 17時05分
コメント
みぃみさん、あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
菅野美穂さんならではの幅の広さを感じましたよね。
童女のようなころから、老女まで。
また世代の幅だけではなく、汚れ系の役柄までいける方はそうそういませんよね。
ベストマッチなキャスティングだったと思います。
大人の物語にしたことで、前作よりも見応えのある作品になっていました。
投稿: はらやん | 2013年1月 2日 (水) 20時52分
こんにちは。
綱吉といえば、とんでも将軍の歴史認識のもと、菅野ちゃんどう演じるのだろう?と思いながら観ていました。
男狂いの顔、学問や政道に励む顔、権力者の顔、そして一人の女としての顔、どれも上手で、一人の人間に対してこんなに様々な感情が沸き起こるんだ〜と。
綱吉も吉保も桂昌院もみんな一生懸命勤めを果たそうとしていて、でもそれが誰かを傷つけちゃって…そして、最後への展開は切なかったです。
一面性での判断は考えなきゃ…とも。
今年も一年、たいへんお世話になり、ありがとうございました。
来年も、よろしくお願いできれば、嬉しいです。
良いお年を☆。
投稿: みぃみ | 2012年12月31日 (月) 10時52分