本 「チヨ子」
こちら、宮部みゆきさんの中短編集です。
どの作品もとても宮部さんらしい作品になっています。
書かれた時期はまちまちのようですが、宮部さんらしいテーマがどれにも通じているような気がします。
何度もこちらの記事で書いていますが、宮部さんの作品にはどうしてもなくすことのできない悪というものが描かれます。
この悪ですが、よくよく読むと2種類あるのですね。
ひとつは良心をほとんど持たない、他人を傷つけることを何とも思わない絶対的な悪意を持つ登場人物がでてくるタイプのもの。
「模倣犯」などがそれになります。
もう一つは、根も葉もないうわさ話、中傷、いじめなど、それを行っている人は絶対的な悪意を持つ人々ではないというタイプ。
根も葉もないうわさ話をしている人は誰かを傷つけるということを意識していないのですね。
よくいじめの問題で、加害者は「いじめている意識はなかった」と言っていると報道されますが、この誰かを傷つけているという自覚がないというのは非常に問題なのです。
悪意がないからたちが悪い。
この中短編集はそういう悪意のない悪、そしてなくすことのできない悪による様々な出来事を描いています。
最後に収められている中編「聖痕」は、最近読んだ「英雄の書」にも繋がるテーマであるような気がしました。
こういうテーマなので重めの話が多いですが、中でも本のタイトルになっている「チヨ子」はファンタジーのテイストもあるいいお話で、ちょっとほっとします。
「チヨ子」宮部みゆき著 光文社 文庫 ISBN978-4-334-74969-9
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