本 「英雄の書」
宮部みゆきさんはRPGが好きというのは、ご本人もいろいろなところでおっしゃっていますね。
だからか「ブレイブ・ストーリー」「ドリームマスター」「ICO」などのファンタジー作品もいくつか発表しています(「ICO」はもろゲームの小説化です)。
僕は宮部みゆきさんの作品が大好きなのですが、どうもこれらのファンタジーものについてはそれほど面白いと思ったことがないのですよね。
おそらく舞台となっている世界などが、RPGなどのゲーム世界と同じステレオタイプな感じなので、そのあたりに宮部さんらしいオリジナリティが欲しいと思ったのだと思います。
本作「英雄の書」もファンタジー作品に分類される作品だと思いますが、こちらについてはとても面白く読めました。
RPG的な世界観はやはりあるのですが、それよりも宮部作品らしさのほうがかなり強く出ており、宮部ファンとしてはそのあたりが良かったなと感じました。
今までも書いてきましたが、宮部作品には絶対的な悪意というものが登場することが多いです。
この絶対的な悪意というものは弱者に対して攻撃をしてしまうこと、自分の望みや快楽だけを何よりも優先させてしまうことなどです。
本作でもその悪意の例としてあがっているのが「いじめ」です。
宮部作品の中でしばしば登場するこのような悪意というものに対して、宮部さんはおそらくなくなるものではないと考えていると思います。
悪は滅びる、というほど単純なものではないということですね。
絶対的な悪意はなくならない、ではそれに対してどのように対処するか。
見て見ぬ振りをするのか、・・・それではいけない。
そういった悪意に立ち向かう、勇気が必要であると宮部さんは言っていると思います。
宮部作品では、そういった悪意に立ち向かうのが、純粋な心を持った子供であることが多いですね。
本作の主人公友理子=ユーリもそういった一人です。
純粋な心を持つとはいえ、対するのは絶対的な悪意であり、そして自身は子供なわけです。
ユーリも打ちのめされ、挫けそうになりますが、その度毎に立ち上がり、悪意に立ち向かうわけです。
その向かい合おうとする勇気こそが大事なのですね。
昨今「いじめ」が問題になりますが、「いじめ」自体はもちろん問題ですが、それに対して気づかないようにしている周りの大人たち、友人たち、それもひとつの悪意なのですね。
自分だけが守られていればいいという。
それに立ち向かうことにより、自分も傷つくかもしれない。
でもそれに立ち向かう勇気こそが必要なのです。
そういった宮部作品に共通するテーマが色濃く出ている作品だと思いました。
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