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2012年8月18日 (土)

本 「Think Simple -アップルを生み出す熱狂的哲学-」

本著は長年、広告代理店でアップルの広告に関わってきたケン・シードルが、アップル(特にスティーブ・ジョブズ)との仕事の中で目の当たりにしたかの企業の哲学についてまとめたものです。
タイトルに「Simple」とあるように、アップルの(というよりスティーブ・ジョブズ)の哲学はこの言葉に集約されいると言っていい。
本著はそれなりのボリュームがある本であるが、言っていることは「Simple」であるということをどのようにアップルが成し遂げてきたかとうことを繰り返し書いており、いたって内容は「Simple」です。
アップルの製品(MacやiPhone、iPad)やサービス(iTunes StoreやApple Store)に触れたことのある方ならば、アップルという企業が「Simple」で貫かれているということはわかるでしょう。
製品には他のPCや家電製品についてくるような分厚いマニュアルはありません。
分厚いマニュアルがなくとも、アップルの製品は直感的に使えるように「Simple」さを極めているからです。
Apple Storeは家電量販店のような派手派手なポスターや価格表でどこに目をやっていいかわからないことにはなっていません。
オシャレなテーブルに製品がディスプレイされているだけ、それに客は自由に触って試してもいい。
アップルに貫かれている「Simple」さはいろいろな面に見ることができます。
まずはプロダクトデザインや広告。
プロダクトデザインについては言わずもがな、広告については「Think Different」とうポスターが記憶にある方も多いでしょう.
世界を変えた偉人のモノクロの写真と「Think Different」というコピー、そしてアップルのロゴだけ。
製品の名前も写真もありません。
でもそれだけでアップルがやりたいことは伝わってきます。
僕もパッケージのデザインや、広告、Webなどに関わる仕事をしていますが、やはり経験上そのようなクリエイティブを作るにあたりいつも考えるのは「Simple」であること。
スーパーにならんでいるコモディティ商品のパッケージにはとってもいろいろなことが書いてあります。
でもその言葉をひとつひとつ読んでいる人なんているのでしょうか。
経験上、人はパッケージを見て一瞬に理解することは1つか、2つ。
それ以上のことを書いても、ただのノイズにしかならないのです。
下手をすると一番伝えたいことも伝わらなくなってしまう。
CMについても15秒で伝えられるのはせいぜい一つ。
でも世の中には15秒しゃべりっぱなしのCMがいかに多いことか。
視聴者がトイレタイムで立ち上がるのもわかります。
Webにおいてもクリエイターは一所懸命Flashでアニメーションを使ったムービーを作りますが、それを最後まで観る人はどのくらいいるでしょう(僕はスキップしてしまいます)。
本書は「Simple」に対して「複雑さ」を悪魔のように書いていますが、まさに多くの企業はこの悪魔に魅入られているのです。
正直、自分もすべて関わっている案件でこの「複雑さ」という悪魔に勝てているかというと、決してそんなことはなく、どちらかというか負け続けていると思うのですが、それでもやはり「Simple」さにはこだわっていきたい。
そして数少ない「Simple」さが勝った仕事は、やはりうまくいっているのですね。
またアップルの「Simple」さは社内の物事をきめるプロセスということにも貫かれています。
少人数精鋭のチームで彼らは仕事に挑む。
形式ばかりの会議は行わず、ピラミッド型の組織運営もしない。
そこそこの規模の企業(特に日本の企業)だと、物事を決めるのにいくつの会議を通過しなくてはいけないでしょうか。
その会議を通過していく中で、もともとエッジが効いていたアイデアが、牙を抜かれ、他の会社の数多の商品やサービスとあまり変わらなくなっていくという経験をした方も少なくないでしょう。
アップルにはそういうことはないわけですね。
僕も以前の組織では、いくつもの打ち合わせやプレゼンを経て、デザインや広告を通していきました。
その中で後から入ってきた方の意見で案が2転、3転するのもしばしば。
元々現場がやりたいと思っていたことが見る影もない状態になることもよくありました。
じゃ、いろんな人の意見を取り入れたデザインや広告が一般の人に受け入れられるかというと、それはすでに「複雑さ」の悪魔に見入られたものなので、一顧だにされないということもあったわけです。
今の組織は人数が少ない分、構造がフラットなため、日常的な会話の中でデザインや広告について話合いながら詰めていくことができています。
またなるべく「Simple」がいいという合意も基本的にあるので、あれもこれもということにはなりにくい(ないとは言いませんが)。
当然世の中に出すものですので、社内の合意プロセスはあるのですが、形式張ったものではありません。
お客様に「Simple」なメッセージが出せているほうではないかと思います。

本著に対する不満としては結果的に「ジョブズ万歳」となっているところです。
アップルの「Simple」さはジョブズのイニシアティブによってこそ成り立っていたともとれます。
じゃ、ジョブズ亡き後のアップルはどうなるのかと。
「Simple」さという考えはジョブズに限ったものではありません。
ジョブズほど徹底的にやるというのは確かに困難かもしれませんが、マーケティングに関わる人がそういう意識を持って仕事をすることはできます。
そういう中で物事をより「Simple」にしていく。
それが結果的にはお客様の満足に繋がっていくのだと思います。

「Think Simple -アップルを生み出す熱狂的哲学-」ケン・シードル著 NHK出版 ハードカバー ISBN978-4-14-081545-8

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