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2012年8月 4日 (土)

「The Lady アウンサンスーチー ひき裂かれた愛」 強い意志と深い愛

ビルマ(現ミャンマー)の民主化運動の象徴として、軍事政権から迫害を受けながらも、活動してきたアウンサンスーチー女史。
長い間自宅軟禁状態になっていましたが、2010年に開放、そして昨年彼女が率いるNLDが総選挙で勝ち、ミャンマーは一歩民主化に歩みを進めました。
アウンサンスーチーの名前は幾度も日本でも報道をされたため、ビルマの民主化活動家として僕も知っていましたが、知っていることは上記したようなことまでで、実際彼女の人となりについてはよくは知りませんでした。
恥ずかしながら、彼女がビルマで活動する前に、イギリス人と結婚し、イギリスで子供をもうけたということはこの映画で初めて知りました。
ずっとビルマで育ち暮らしてきた人だと思っていたのです。
アウンサンスーチーはビルマで民主化活動を始めましたが、父親で暗殺されたアウンサン将軍の娘であるということから当局に目を付けられ、その行動を監視されます。
アウンサン将軍は暗殺されたために、かえって民衆にとっては民主化の象徴となってしまったという反省から、軍事政権当局は彼女に対して強硬手段はとりません。
その代わりに自宅軟禁状態にしたり、イギリスにいる夫や子供との交流を妨げ、彼女の意志を挫こうとするわけです。
こういう事実を知ると、本作のサブタイトルである「ひき裂かれた愛」というのは的を射ているなと思います。
アウンサンスーチー女史は、イギリスに残した夫と子供を思い、いっしょに暮らしたいと思いつつも、ビルマ民衆の期待と彼女自身が感じる強い義務感を持ちビルマで活動を続けます。
そして夫のマイケルも彼女のそのような真摯な気持ちを理解し、離れて暮らす辛さを感じつつも、遠い地から彼女をサポートし続けるのです。
夫婦としてお互いに愛し合っていながらも、ビルマの民衆のために別々の場所で戦っているアウンサンスーチーとマイケル。
別の場所に引き裂かれていながらも、二人の気持ちは深く繋がっている。
そのような二人の気持ちの深さ、そしてビルマ民衆へ真摯に向き合う気持ちに素直にうたれました。
アウンサンスーチーという女性が、ここまで厳しい人生を歩んできたことを今まで知らなかったのですが、そういう状況の中でも、強い意志を貫き通した彼女の姿が神々しくも思えました。

そんなアウンサンスーチーを本作で演じたのはミシェル・ヨー。
シーンによっては本人じゃないかと思えるほどに、ミシェル・ヨーはアウンサンスーチーを見事に演じきったと思います。
特にハンスト後のやつれた面持ちは、今までも報道で何度か観たことのあるアウンサンスーチーに似ていて驚きました。
ミシェル・ヨーは元々は「007」にも出演したことのある香港のアクション女優ですが、本作では線の細い印象のアウンサンスーチーになりきっていたと思います。
ご本人も10年以上に渡る軟禁状態を経ても民主化への思いを持ち続けた人ですので、強い意志力をもっている方だと思うのですが、そんな強さが演じるミシェル・ヨーからも伝わってきました。
彼女は瞳の力が強いのですよね。
それがアウンサンスーチーの意志の力を表現しているように思いました。

アウンサンスーチーは自宅軟禁状態から開放され、ビルマも民主化へ歩み始めています。
でも彼女を支えていた夫のマイケルはそれを見届けることなく、ガンで世を去ってしまいました。
愛する夫を側で看取ることのできなかった彼女は、どれだけ無念であったでしょう。
でもそれで挫けることなく、彼女は強い意志を持ち続けました。
「ここで(イギリスに)帰ったら、マイケルと私の戦いが無駄になる」
と彼女は言いました。
民主化への活動を続ける強い意志の背景には、夫への深い愛もあったわけなのですね。
彼女の願いが叶い、ビルマがより人々が幸せに暮らせる国になってくれるように祈りたいと思います。

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コメント

sakuraiさん、こんばんは!

>精神を紡ぎだそうと
確かにそうですね。
佇まいというか、穏やかでありつつ、芯に凛とした強さを持っている感じというのが伝わってきました。
アウンサンスーチーの家族のことはまったく知らなかったのですが、ああいう状況のなかでも自分の意志を曲げない強さというのはなかなかないものですよね。
リュック・ベッソンの作風とは違うなとは思いつつ、彼は強い女性が好きなタイプだから、こういうのもありなのかなと思ってしまいました。

投稿: はらやん | 2012年11月20日 (火) 20時48分

断片的にしか知らなかった人となりを、きっちりと学ばさせていただきました。
ほんとにミシェル・ヨーは見事に演じてましたね。
似せようというんじゃなく、精神を紡ぎだそうとしたんではないかという風に感じました。
これがリュック・ベッソンだったというのが、また驚き!だったです。
やればできるじゃん!みたいな。

投稿: sakurai | 2012年11月20日 (火) 09時44分

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