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2012年8月13日 (月)

本 「感染遊戯」

誉田哲也さんの姫川玲子シリーズのスピンオフとなる作品です。
姫川は本作でちらりと登場しますが、物語は本編でおなじみの姫川の天敵であるガンテツ、姫川の元部下である葉山、そして「シンメトリー」の「過ぎた正義」に登場した倉田が中心となり物語は進みます。
本作は中編集の体裁になっており、ガンテツ、葉山、倉田はそれぞれ別の事件に関わるのですが、それが実際のところはある事件に通じているという構造になっており、本作全体としてひとつの物語として読むことができます。
本作はテレビドラマの「ストロベリーナイト」でも、1話分の原作として取り上げられています。
ドラマのほうは本作のような構造にはなっておらず、一つの事件としてだけの扱いになっています。
事件としては原作の小説のほうがよく練られており、また考えさせられるテーマを持っています。
本作で取り扱われる事件は、中央官庁の元官僚がネットに公開されてしまった個人情報を元にして殺害されていくという内容です。
この作品を読んで、てっきり実際に事件としてあった「元厚労省事務次官殺人事件」からヒントを得て、書かれたものだと思いました。
しかし、調べてみると本作が書かれたのは、実際の事件よりも前だったということで驚きました。
ある意味、本著はそういった事件が起こるということを予言していたとも言えるわけです。
この作品が提起している問題は2つだと思います。
一つは官僚のモラル低下(そもそもモラルが高い時があったのかどうか)。
民間企業で言えば、なにかおかしなことがあれば、それは会社の収益に関わり、そもそもの存在に影響を与えます。
会社がなくなれば、そこで働く個人も職を失うわけで、そこである程度のモラルは担保されるのです。
だからこそ民間は、ある種の自浄作用というものは持っているわけですね。
でも官僚の場合、役所がつぶれる、国がなくなるというのは基本的にないわけで、だからこそ切迫感がない。
自分で汗水たらして稼いだお金ではないから、無頓着になる。
すべてとは言いませんが、官僚は自分個人に影響を与えるような事態にはならないというような思い込みがあるような気がします。
その感覚と、民間で働く普通の人々の間には、大きな溝があり、それを自覚していないからこそ、さまざまな不祥事が繰り返されるのです。
本作で描かれる事件は、自分が仕事上でしたことが、自分個人に跳ね返ってくるということを、自覚せよということにも受け取れます。
もう一つは、個人情報の取り扱いの問題と、ネット上での感情の誘導の問題です。
ここまでネットが発達してきて問題となるのは個人情報の取り扱いです。
自分が知らないうちに、自分の情報がさらされていて、それが何かよからぬことに使われてしまう。
そしてそれが悪意と結びついたら・・・。
本作で描かれている事件というのは、それこそ実際起きてしまっているわけで、なにかおそろしさを感じます。
そしてウソ寒く感じてしまう大きな理由は、そうじゃない状態に社会全体はもう戻れないということです。
インターネットで情報を集めるという時代になり、そうじゃないときにはもう戻れない。
ウソ寒くても、そういう状態とうまくつき合っていかなければならないわけです。
でもよく考えてみると、昔は「お天道様が見ている」という言い方をして悪いことをしても、誰かが見ていていつかは罰せられるというような感じでいました。
でもいつしかそういう気持ちはなくなり、「誰も気づかなければいい」というような気分が蔓延してきたのではないでしょうか。
官僚に限らず、そういった気持ちは一般の人にもあるかもしれません。
しかし、ネットが発達した現在、「お天道様は見ていなくても、みんなが見ている」という状態になっているのかもしれません。
それを自覚をすれば、「誰も見てなければ・・・」というようなことも起こりにくくなるのではないかとも思ったりします。
良心を自分の外に求めるっていうのも寂しい限りなのですけれどね。

「感染遊戯」誉田哲也著 光文社 ハードカバー ISBN978-4-334-92748-6

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