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2012年6月 4日 (月)

本 「坂の上の雲」

司馬遼太郎さんの「坂の上の雲」を読み始めたのは、NHKのドラマがきっかけ。
3年越のドラマが終わってもまだ読み終えておらず、えらくペースが遅かったですが、ようやく最終巻まで読み終えました。
ご存知の通り、「坂の上の雲」は日露戦争を題材としています。
日露戦争はほんの百年くらいまえの出来事なのですが、意外と小説や映画の題材になることはありません。
なのであまり日露戦争の詳しく知る方というのは少ないのではないでしょうか。
かくいう僕もそういった者の一人でした。
旅順攻略、奉天決戦、日本海海戦など部分的には知っていましたが、戦争全体の趨勢についてはそれほど知っていたわけではありません。
司馬遼太郎さんは本作で日露戦争に至る明治という時代、そしてその時代を生きる日本人の精神を描き、さらに日露戦争開始後からはその日露双方の戦略・戦術の分析を行っています。
日露戦争を題材にする小説や映画がなかなか作られなかったというのも、完成度の高い司馬遼太郎さんの「坂の上の雲」に挑むことに人々が躊躇したというのもあるかもしれません。
司馬遼太郎さんがあとがきでも書いているように日露戦争の頃の日本人は楽天主義でありました。
それは明治維新後50年ひたすらに先進国に追いつくべく突き進み、無理をしながらもその背中が見えてきたという時代であったかもしれません。
頑張ってその成果がでている、手応えを感じるというのがあの時代の楽天主義に繋がっていたのかもしれません。
またその楽天主義の裏には、追いつかなくては日本という国がどうなってしまうかわからないという危機感もありました。
そういった楽天主義と危機感が、日本を日露戦争へ誘い、そして結果、勝利を得ることができました。
日露戦争とは日本が先進国へ仲間入りしたことを宣言するものでもありました。
そしてそれは日本人が大いに自信をつけることになったのです。
けれどこの戦争は日本にとって先進国入りをしたというだけでなく、大きな歴史の転換点でもありました。
日本が得た自信はやがて、慢心となり、その後の太平洋戦争へと繋がっていくのです。
そのあたりの危うさは司馬遼太郎さんもこの作品のなかで何度も触れていました。
太平洋戦争は悲惨な敗北として終わり、日本は再び先進国から脱落する結果となったわけです。
この作品が書かれたのはちょうど僕が生まれた頃で、日本が高度経済成長の時期に重なります。
現代を生きる僕がこの作品を読むと、日露戦争直前の日本の楽天主義というものは、高度経済成長下の日本人にも通じるところがあったかなと思いました。
右肩上がりで経済は成長し、戦後の悲惨な状態からどんどん生活はよくなっていく。
そして先進諸国へ経済も追いつき、そして追い越そうかというほどの勢いを日本は持っていました。
そういった右肩上がり感を信じるその頃の日本人は、日露戦争直前の楽天主義にも通じるような気がします。
やがて日本はアメリカに次ぐ経済大国となり自信を深めます。
そしてその自信は、やはり慢心となり、そしてその末路としてバブル崩壊と繋がっていくのです。
これは戦争というかたちをとっていませんが、日露戦争から太平洋戦争への道筋とオーバーラップします。
もしかすると司馬遼太郎さんは高度経済成長下の日本人に、日露戦争時の日本人と共通する危うさを感じたのかもしれないなと思いました。
日本人というのは何度イタい目にあっても変わらないということでしょうか。
ただイタい目にあってもそこから復活しようとするたくましさとういのも日本人は持っているのだと思ったりもしました。

「坂の上の雲(一)」司馬遼太郎著 文藝春秋 文庫 ISBN4-16-710576-4
「坂の上の雲(二)」司馬遼太郎著 文藝春秋 文庫 ISBN4-16-710577-2
「坂の上の雲(三)」司馬遼太郎著 文藝春秋 文庫 ISBN4-16-710578-0
「坂の上の雲(四)」司馬遼太郎著 文藝春秋 文庫 ISBN4-16-710579-9
「坂の上の雲(五)」司馬遼太郎著 文藝春秋 文庫 ISBN4-16-710580-2
「坂の上の雲(六)」司馬遼太郎著 文藝春秋 文庫 ISBN4-16-710581-0
「坂の上の雲(七)」司馬遼太郎著 文藝春秋 文庫 ISBN4-16-710582-9
「坂の上の雲(八)」司馬遼太郎著 文藝春秋 文庫 ISBN4-16-710583-7

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