本 「数学的思考法 -説明力を鍛えるヒント-」
日本の子供たちの数学力が下がってきているという報道がされているのを聞いたことがある方はいるかと思います。
それこそ「ゆとり教育」の弊害ということで、授業時間や教える内容の見直しが検討・実施されています。
僕も最近は「円周率は3.14ではなく3で教えている」とか「台形の面積の出し方は教えない」と聞いて驚いた覚えがあります(さすがに円周率の「3」は見直されたらしいけれども)。
では、僕らが学生の頃のように公式ばかりを覚えさせられた状態に戻るのがいいのかというとそうでもないのですね。
著者がこちらの本で訴えているのは、試行錯誤の大事さ、丸暗記ではなくその公式などが導きだされるプロセスの重要性です。
僕が小学生の頃、台形の面積の出し方はこのように教えられました。
(上底+下底)×高さ÷2
こういった公式をたくさん覚えさせられて、算数・数学嫌いになった方も多いかもしれません。
僕はそのときの教育指針なのか、教えてくれた先生が良かったかは定かではないのですが、なぜこのような公式になったのかを教えてくれました。
まったく同じ形の台形を上下逆にしてくっつけると平行四辺形になります。
平行四辺形の面積の出し方は
底辺×高さ
です。
台形の面積の公式は同じ大きさの台形を2つくっつけてできた平行四辺形の面積を出し、それを最後に1/2にしているという意味なのですね。
平行四辺形の面積は鈍角から垂直線を立ち上げてできた鋭角を含む三角形を切り取り、もう一方にくっつけると長方形になることから出しています。
長方形の面積は底辺×高さですから、平行四辺形も同じ考え方で面積を出していいというわけです。
こういった論理の筋道を教えてもらったので、公式を普段の生活では使うことがなくても、それを導きだすことができるわけですね。
公式を丸暗記というのはけっこう辛い。
しかしそこに流れがあれば覚えやすいのです。
そしてその論理の流れが頭に入ると、その考え方を他にも応用できるわけです。
著者が試行錯誤やプロセスが大事だと言っているのはここにあります。
丸暗記で覚えたものは応用が利かない。
プロセスで覚えたものは応用が利く。
社会に出て公式なんぞ使わないから、数学なんて必要ないという人はいます。
公式を使わないという点については、確かにその通り。
微分・積分の公式なんて使うことはないですし、ピタゴラスの定理だってそう。
しかし、その公式にいたる考え方は物事を理解する上では、実は必要であったりするのですよね。
社会に出て思うのは「証明問題」などはしっかりとやっていたほうがいいなと思ったりします。
「どうしてそういう風にいえるのか」という論理性を求められることはかなり多いわけです。
数学的思考法というよりは、プロセスを教えるということは他の教科でも必要だったりするかなと思います。
例えば、歴史とか。
「いいくに(1192年)つくろう鎌倉幕府」などと年号を丸暗記した記憶のある方も多いかと思います。
個人的にはこの年号を覚えるというのは小さい頃から大嫌いで、正直覚えようとしませんでした。
しかし、歴史は大好きだったのですね。
どちらかというと「○○」という出来事があって、「△△」という出来事が起きたといった、因果を感じるのが好きだったのです。
因果というと小難しいですが、ようは物語、ストーリーです。
年号を穴埋めする問題は、テストの中で出ても1、2問、それは捨てて、もっとストーリーで理解して「頭に入ってくる」ほうがよほどいい点数を取れる(いい点数をとるというより単に好きだったということかもしれないですが)。
勉強がつまらないという子供の大抵は、丸暗記を強要されるからだと思います。
それは苦痛です。
社会人になっても苦痛です。
けれどそのプロセスを理解し、ストーリーを追っていくことは数学でも歴史でも、そして仕事でもけっこう楽しかったりするのです。
試行錯誤させる、プロセスを理解させる、それこそが教育の真髄なのではないかと思ったりします。
「数学的思考法 -説明力を鍛えるヒント-」芳沢光雄著 講談社 新書 ISBN4-06-149786-3
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コメント
ryokoさん、こんばんは!
そうなんですよね、試験のテクニックはテストでは使えるけれど、なかなか応用は効きません。
解決までの道筋をどう見つけたかという経験は、別の問題にあたったときも使えるんですけれどね。
>補助線を一本引くことでわかる感動
これ、わかります。
スーッともやもやが晴れるような感じ。
そういう感動が味わえると勉強も楽しくなるのでしょうね。
投稿: はらやん | 2012年5月11日 (金) 20時31分
こんばんは。
同感です。よく社会に出て役に立つのは四則演算だけなどと言われますが、数学の目的は、筋道を立て論理的な考え方を身に付けることにあると思います。
解は一つでも、そこに至る道はいくつかあり、力技で解く方法もあれば、工夫することで驚くほど簡単になったりもする。この試行錯誤が大切だと思うのですが・・・如何せん、時間の余裕がないってところが問題かなと思います。塾などでは要領よく解くテクニックを教えてしまいますからね。
補助線を一本引くことでわかる感動を味わってもらいたいです。
投稿: ryoko | 2012年5月 9日 (水) 00時02分