「おかえり、はやぶさ」 着眼大局、着手小局
「はやぶさ」のエピソードの映画化作品、こちらは松竹版になります。
結果から言ってしまうと、三作品の中で最も面白くない。
「はやぶさ」の旅の経緯というのは変えようがないわけで、それが最後発の公開となるのでエピソードそのものに新鮮さがなくなり、不利ではあるのは間違いないのですけれども。
「はやぶさ」がイトカワへのタッチダウンを失敗し再チャレンジするところとか、通信途絶してしまうところも描かれますが、今までの2作品に比べると割とあっさりしています。
イトカワへもすんなりたどり着けたような感じもしてしまいますね。
この点については作品としての意図があると思いますので、これについては後ほど。
三作品が出揃ったところで、比べてみると同じ題材を使いながらも、その料理の仕方が三作品で違うのは興味深いところです。
FOX版「はやぶさ HAYABUSA」は当時「はやぶさ」にシンパシーを感じた日本人の心を最も素直に映画にした作品と言えます。
ただの探査機であるのにそれを「はやぶさくん」と皆が言っていたように人々は「はやぶさ」に感情移入をしたわけで、それを映画の中でも擬人化することで人々の気持ちを作品の中に表しています。
観客は「はやぶさくん」が困難にもめげず諦めずに、その旅を続けていく姿に感情移入をするわけですね。
そういう意味で観客である普通の日本人の目線に立った作品であると言えます。
竹内結子さんが演じた架空の広報担当者が観客のガイドとなって、「はやぶさ」と観客を繋ぐ機能を果たしていました。
この作品は「はやぶさくん」が中心とも言えるわけで、心を揺さぶる感動という点ではこのワーナー版が最も優れていたと感じました。
「はやぶさ」プロジェクトそのものの解説という意味でも最もわかりやすかったと思います。
東映版「はやぶさ 遥かなる帰還」は、「はやぶさ」というかつてないプロジェクトに挑む研究者、技術者たちを描いている作品となります。
「はやぶさ」そのものというよりは、困難なプロジェクトに立ち向かい葛藤しながらも、諦めない人たちが中心になっています。
ドキュメンタリーに近い要素があるのがこの作品で、「プロジェクトX」的な香りもあり、そういう意味では大人向けの「はやぶさ」物語と言えるでしょう。
そして本作、松竹版「おかえり、はやぶさ」ですが、パンフレットのトーンを観る限り、子供というかファミリーでの観賞を狙っている作品であるかと思われます。
導入部分で子供が「はやぶさ」について解説したりというようなところにもその意図を感じますが、かといって子供が中心に物語が進むわけでもありません。
どの登場人物にも求心力があまりないのですよね。
強いて言えば、主人公健人とその父親の関係が中心ではあるのですが、ここへのドラマ的な中心をもっていききれていない感じがあります。
あまりファミリーということを意識せずに、健人と父親へフォーカスをもっとすればドラマとしては盛り上がったかもしれません。
本作でユニークな目線だと思ったのは、火星探査機「のぞみ」の「失敗」にフォーカスをしているということです。
本作で「はやぶさ」のエピソードが「成功」として割とあっさりと描かれているというのは、「のぞみ」の「失敗」と対比させる意図があるのかと思いました。
宇宙探査といった大プロジェクトは、それこそ長い年月と莫大な費用がかかる事業です。
そのプロジェクトに携わったとしても、結果を見ることができない人というのも多くいるでしょう。
そして本作で触れられているのは、「のぞみ」の「失敗」で得られた知識、知恵というものが、その後の「はやぶさ」に活かされている、そしてまた「はやぶさ」の経験もまた、その後のプロジェクトに引き継がれていくということです。
本作で「着眼大局、着手小局」という言葉が出てきますが、これは「はやぶさ」プロジェクトについてというだけではなく、日本の宇宙開発事業全体について言える言葉でもあります。
「のぞみ」の「失敗」、「はやぶさ」の「成功」は宇宙開発事業全体から言えば小局とも言えるわけで、それを含めた大局を描けているかというのが、本作が伝えたかったことの本質ではないかと思います。
目先の予算で「仕分け」してしまうのではなく、国家としてどう宇宙開発を考えるかという大局を論じる時期なのではないかと言いたいのではないのでしょうか。
本作は「はやぶさ」だけの物語ではなく、日本の宇宙事業全体の物語として観ることができます。
それを「のぞみ」で「失敗」した父親、そして「はやぶさ」で「成功」を果たす息子というキャラクターに落とし込んだ発想はおもしろいなと思いました。
そこをもっとドラマとして膨らませればおもしろい作品になったのではないかと感じました。
へんにファミリー層狙いなどというところを意識したのか、焦点がぼやけたものになってしまったのが残念です。
ちなみに3D映画としては、その技術を活かした演出ができておらず、残念な感じです。
「はやぶさ HAYABUSA」の記事はこちら→
「はやぶさ 遥かなる帰還」の記事はこちら→

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作品について http://cinema.pia.co.jp/title/156382/
↑ あらすじ・クレジットはこちらを参照してください。
小惑星イトカワの探査機「はやぶさ」を題材にした人間ドラマの1つ。
本作は、「はやぶさ」のイオンエンジンに関わったエンジニア(主演:藤原竜也さん)が主役です。彼の父(三浦友和さん)は、かつて失敗に終わった、火星探査機「のぞみ」の責任..... [続きを読む]
受信: 2012年11月23日 (金) 19時20分
コメント
みぃみさん、こんばんは!
三番手っていうところを意識しすぎましたかねー。
着目点などはユニークだと思いましたが、それが映画として消化し切れていない感じがありましたね。
「のぞみ」の失敗、「はやぶさ」の成功が、引き継がれて次世代の宇宙開発へ繋がるというのはテーマとしては良かったと思いました。
ドラマが弱かったですかねー。
投稿: はらやん | 2012年3月23日 (金) 00時07分
cyazさん、こんばんは!
切り口はいいところついている感じがありましたが、ファミリー狙いみたいなところとうまく融合し切れていなかった感じがしましたね。
脚本の練りが甘い感じがしました。
もうちょいうまくやればよくなりそうな感じがしたのですが。
最後発というところで、他と違いを出さなくてはいけないということに気が向きすぎちゃったのですかね。
投稿: はらやん | 2012年3月22日 (木) 23時44分
こんにちは♪。
竹内結子さんご出演作品での「のぞみ」の登場の仕方が印象的でしたので、
今回の父と子のストーリーで掘り下げてくれる事を、期待していたのですが…。
作品が異なるから被るのを避けちゃったのでしょうか。ちょっぴり残念でした。
「はやぶさ」の仕組みや対応方法はわかりやすかったです(^^)。
「着眼大局、着手小局」等、いい言葉や考え方もたくさん発してくれていますし☆。
投稿: みぃみ | 2012年3月21日 (水) 11時50分
はらやんさん、こんにちは^^
いつもTB、ありがとうございますm(__)m
確かに「はやぶさ」テーマの三作の中、
僕もこれはちょっといただけないなぁと思いました。
ファミリーターゲットと言いつつも、
描きたいイメージが感じ取れない映画でした。
この脚本なら、TV2時間ドラマで十分だと思いましたが(笑)
父娘対決はもちろんオヤジの勝利ですね!
投稿: cyaz | 2012年3月21日 (水) 08時17分
ほし★ママさん、こんにちは!
僕も一連の「はやぶさ」作品の中では堤監督のが一番好きですねー。
3Dをうたっていましたが、そもそも宇宙空間は空気がないから遠近感がなくなる(遠くでもハッキリ見える)と言われているから、あまり3Dにしてもかえって嘘くさい感じがしました。
他との違いを出す狙いもわかるし、目の付け所も悪くはないとは思ったのですが、いかんせんまとめきれていない感じがしました。
ちょっと残念な出来でしたね。
投稿: はらやん | 2012年3月20日 (火) 08時07分
堤版がすごく気に入ったので、すっかり失速↓
記事も書きっぱなしで投げておりました。
はらやんさんに見つけてもらえて、うれしかったです。
2Dで観たからかも~とも思いましたが
そればかりでもなかったようですね。
私も、藤原・三浦父子のストーリーを惜しいと思いました。
ところで~ステキな壁紙に模様替えしましたね。
ブログは、すっかり「春」ですね♪
投稿: ほし★ママ | 2012年3月19日 (月) 22時33分