「マリリン 7日間の恋」 マリリンというキャラクター
惜しくもオスカーを逃したミシェル・ウィリアムズがマリリン・モンローを演じる「マリリン 7日間の恋」を観に行ってきました。
ミシェル・ウィリアムズをマリリン・モンローは似ているわけではないのですけれど、作品の中ではマリリン・モンローに見えてくるのですよね。
観終わって、それはひとつ理由があるなと思いました。
それは後ほど。
自分は世代的にはマリリン・モンローは映画ファンとして知識は持っているのですけれど、実際しっかりと彼女の作品を観たことがあるかというとなかったりするわけですね。
しかし、いくつもの作品でアイコンとなった彼女に触れているわけで、あるイメージは持っているわけです。
ですので、彼女の生い立ちとか人生について深い知識があったわけではありません。
本作では彼女がイギリスで過ごす短い期間を描きますが、その中で彼女のそれまでの人生に触れるところがいくつかあります。
すなわち、彼女は幼少期からさまざまな家にたらい回しにされて育った頃、本作で描かれるとき(30歳頃)までにすでに3回結婚しているということなどです。
また、本作ではモンローが、天性の演技者であるということを描きつつ、役に入り切るまでに非常に時間がかかること、また非常に気まぐれで、かつ精神的にはとても不安定なところなども触れられます。
精神的に不安定なところは、映画スターとして名前を馳せながらも、彼女の中で常に自信のなさがあるというところに起因していると思われます。
その自信のなさというのは、女優としてのということではなく、もっと根本の自分は存在していいのかというようなところまで深いものであったのでしょう。
それは幼い頃よりたらい回しにされてきたということで、自分の居場所というものを見つけられなかったという経験によるものだと思います。
また天性の演技者という点についても、恵まれない環境の中で自分の居場所を見つけるために、人に気に入ってもらうという術を知らず知らずのうちに身につけてきたということなのかもしれません。
モンローに惹かれるコリンに「さあ、マリリンになるわよ」とモンローは言います。
彼女にとってマリリン・モンローという存在は、素の自分ではなく、自分が世の中に受け入れられるために演じているキャラクターなのでしょう。
そのキャラクターは、幼い頃よりモンローが周りの人に好きになってもらうために作り上げられてきたものなのですよね。
そういう点で「人に好かれる」という点において練りに練り上げられたキャラクターなわけです。
つまりそのキャラクターのエッセンスを捉えられていれば、誰でもマリリン・モンローになれるわけです。実際はそのエッセンスを捉えるのが難しいわけではあるけれど。
ミシェル・ウィリアムズはそのエッセンスを上手く捉えたのでしょうね。
だから比べると似ているわけではないのに、作品の中でのミシェル・ウィリアムズはマリリン・モンローに見えるわけです。
オスカーを競った「マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙」のメリル・ストリープもサッチャーに似ているわけではないのに、サッチャーに見えました。
実在の人物のエッセンスを掴むという点で、今回のアカデミー賞は真っ向勝負だったわけですね。
マリリン・モンローは、マリリン・モンローという女優を演じつつ、さらには映画の役も演じなくては行けなかったわけです。
本作を観ると彼女は役を理解し切って、どっぷりとはまらなければ演じられなかったタイプのようです。
そうすると撮影中は素の自分、マリリン・モンローの自分、演じる役の自分という3つの自分がいっしょにいる状態になるわけですね。
そういう状態では精神的に不安定になるのもわかります。
唯一、本作の中で出会うコリンの前では、マリリン・モンローの自分を演じなくてよかったというのが、彼女が精神的に楽になったところなのでしょう。
彼と二人のシーンで、モンローが全裸になって河で泳ぐシーンがありますが、これはマリリン・モンローの自分を脱ぎ去るという点で象徴的なシーンであったと思います。
では彼女がマリリン・モンローの自分を脱ぎ去ることができるかというとそれはまた無理であったわけです。
彼女が作り上げてきたマリリン・モンローというキャラクターは彼女が世の中で生きていくための唯一の武器であったわけです。
それを捨てることはできません。
ですのでコリンとの別れも必然であったわけです。
人に愛されたいと願い、多くの人に愛されることができたマリリン・モンロー。
しかし人々が愛したのは素の彼女ではなく、作り上げたキャラクターであるマリリン・モンローであったわけですね。
彼女が愛されることを望み続ける限り、マリリン・モンローは捨てられない。
この二重性は常に彼女を苦しめることになったのでしょう。
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