「麒麟の翼~劇場版・新参者~」 何も知らない
東野圭吾さんの小説、加賀恭一郎シリーズをドラマ化した「新参者」の劇場版です。
例によってテレビドラマは未見ですが、観てきました。
すごく良かったです。
泣けました。
東京日本橋、首都高の高架下に翼を背負った麒麟の像があります。
江戸橋で何者かに刺された男が、その麒麟の像の下で息絶えました。
死亡した青柳武明が発見された直後から、警察は特別警戒体勢に入り、その時に職質された若い男八島が逃走、
そして彼はトラックに衝突し、意識不明の重体となりました。
被害者青柳を殺したのは八島なのか?
そして青柳は何故刺されてから、麒麟の像の下まで自ら歩いてきたのか?
警察は、被害者の青柳、そして被疑者の八島を調べるために、その家族に話を聞きます。
青柳家については、その妻、そして息子の悠人と娘の遥香に。
八島については同棲相手である中原香織に。
被害者の青柳は休日に日本橋界隈にいつも訪れていたことがわかります。
けれども家族はなぜ彼がそこにいたのかわからない。
また八島については、香織は就職活動をしていることは知っていたが、どこに就職しようとしていたかどうかわからない。
被害者についても、被疑者についても、最も近しい家族がその人物について「何も知らない」ということに気づくのです。
けれど、これは普通のことなのかもしれません。
家族だから、いっしょに暮らしているから、お互いに何でも知っていると思っている。
けれどそれぞれに何を思っているのか、実はよくはわかっていない。
それぞれがどのような悩みを抱えているのか。
それぞれがどれほどに相手のことを想っているのか。
青柳の息子、悠人は父親が死に、加賀たちが父親の行動を明らかにする中で、父親がどれほどに自分のことを想っていたかを気づきます。
八島の恋人の香織もまた、彼が彼女のことを大切にしていたかを知ります。
近くにいるのが当たり前で、そして反発することもあった相手が、どれほどに自分のことを考えていてくれていたか、残された家族は相手をなくして初めてその想いに気づくのです。
東野圭吾さんの作品は本作も「容疑者Xの献身」そうですが、謎が謎をよぶ仕掛けとなっており、ミステリーとして見応えがあります。
けれどそれはトリック的なミステリーではなく、隠されていた人の想いのようなものが次第に浮かび上がっていく物語なのですね。
事件の謎を追っていく中で、次第に人が誰かを想う気持ちが明らかになっていく。
東野さんの作品が何か切なさというものを持っているのは、そういうところなのかもしれません。
最近のミステリーでのヒットメーカーでいうと宮部みゆきさんなどがあげられますが、彼女の作品で一貫しているのは、どうしようもなく絶対的な悪意といったものです。
しかし東野さんで一貫しているのは作品は、悪意というよりも、やはり誰かへの想い、愛なのですよね。
その想いが伝えられない、伝わらないもどかしさが切ない。
本作でも絶対的な悪意というものをもった人物はいません。
あるのは少しの勇気というものを持っていなかったということ。
被害者の青柳武明も息子と勇気を持って向かい合えばよかった。
彼の息子の悠人も自分の悩みを口に出せばよかった。
八島も香織も、互いの想いをしっかりと相手に伝えればよかった。
近くにいるからこそ、家族だからこそ、なにか恥ずかしい、なにか気まずい。
それは誰もが家族に対して思うこと。
でも気持ちを口に出して伝えるということが、やはり大切なのだなと感じさせてくれる作品でした。
そういう想いを感じさせてくれるやさしさを感じさせてくれるのが、東野作品の魅力なのでしょうね。
テレビシリーズの「新参者」も観てみようかな・・・。
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