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2012年1月20日 (金)

「デビルズ・ダブル -ある影武者の物語-」 なぜウダイはラティフを殺さなかったのか?

サダム・フセインの息子、ウダイ・サダム・フセインとその影武者とされたラティフという男の物語。
普通の一般市民(イランイラク戦争中であったので兵士となっていた)であるラティフは、ある日突然に似ているからという理由で親の権力を背景に極悪非道を繰り返すウダイの影武者に仕立て上げられます。
ウダイはまさに悪魔のごとく極悪であり、周囲の者、更にはまったく関係のない者までを悲劇のどん底に陥れ、それを本人はまったく気にしていないという人物です。
そしてそれを間近で見ることとなったラティフの心には、次第にウダイに対しての殺意が育っていくという展開になります。
ぶっちゃけ、サダムをその道では名を挙げた極道の大親分、ウダイを極悪非道で狂気じみた二代目と置き直してみてみると、Vシネのヤクザものでありがちな話だったりします。
サラブはヤクザの情婦で、主人公にも粉をかける謎の女という感じですしね。
ストーリーというよりもウダイ、ラティフという真逆の性格の人物を一人二役で演じたドミニク・クーパーの演技が見ものですね。
動き方、表情のつけ方、声の出し方で、こうも同じ顔をしている人が異なる人物に見えるように演技するというのは驚きますね。
ラティフがウダイの演技をして演説をするなんていうシーンもありますからね。
ほとんどのシーンでウダイか、ラティフが出てきますから、ドミニク・クーパーの演技でかなりの部分を背負っているという感じがします。
見事な演技でした。

話を変えてみましょう。
ウダイは、なぜに最後までラティフを殺さなかったのでしょうか。
ラティフが自分に敵意を持っているというのをウダイは知っていました。
そしてさらにラティフが彼を裏切っても、それでも彼を殺さない。
容易にラティフを殺す力をウダイは持っていた。
なのになぜ・・・。
ウダイは狂気じみた精神の持ち主でした。
しかし彼はおそらく自分の中に足りないものを本能的に感じ、それをラティフの中に見いだしたのではないでしょうか。
ウダイは傍若無人な振る舞いをしますが、実のところ臆病な人物であることがわかります。
父の側近を殺し、父の怒りを買った時には自殺を試みますし、また戦地への演説も自分では行かずにラティフに身代わりをやらせます。
基本的には彼は臆病な人物なのです。
権力をふるいそれに人々が従うのを見なければ、安心できないということなのかもしれません。
しかしラティフはウダイのような臆病さはなく、覚悟を決めたらやり遂げる強い意志を持った男です。
そこにウダイは自分にないものを見たのでしょう。
彼にとって偉大な父親にあり、自分にはないものを。
ウダイは、ラティフを言わば自己同質化して見ていたのでしょう。
ラティフが演説する姿を見ながら、無邪気にあれは俺だというウダイの姿にそれを感じます。
ウダイにとっては、ラティフはこうありたいと思う自己イメージの重要な1ピースなのですね。
そのためラティフを殺すということは、自分自身の半分を殺すということになるのです。
だからウダイにはラティフは殺せない。
実のところ、本作は主人公であるラティフの心情ではなく、ウダイという男の狂気の精神を描こうとする映画であったのかもしれません。

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