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2011年12月17日 (土)

本 「小太郎の左腕」

「のぼうの城」でデビューし、ベストセラー作家の仲間入りを果たした和田竜さんの三作品めになります。
時代小説というのは慣れない人には取っ付き難いかもしれないのですが、和田さんの作品は読みやすいので時代小説苦手な人にもお勧めできます。
本作は時代小説ではありますが、現代にも通じるテーマがあります。
タイトルにある「小太郎の左腕」についてですけれども、本作に登場する小太郎という少年、彼は通常はぼおっとしているなの人のよい性格なのですが、ひとたび左利き用の鉄砲を持たせると性格が変わったようになり、神業のような腕を振るうのです。
常識では考えられないほどの距離から、的を百発百中で当てることができるという能力を持っています。
彼は侍でもなく漁師なのですが、その祖父は小太郎の力を利用されることを恐れ、その腕前を隠そうとするわけです。
戦国の世の中で、遠距離から相手の将の命を奪えるという力は、戦い方や勢力図を一気に変えるほどのインパクトを持っているわけです。
これは戦国時代での現代戦でのピンポイント爆撃のような力を持っているのです。
小太郎の祖父はその力を利用され、孫が兵器のように扱われることを恐れるわけです。
しかし、半右衛門という侍にその能力をみられてしまいます。
半右衛門もその力に驚きつつも、小太郎が素直な子供であることを知り、始めは戦場へ連れて行ってはいけないと思います。
しかし半右衛門の陣営が滅亡の危機に陥った時、彼は非情な画策をして小太郎を戦場に連れ出します。
これが現代に通じるというのは、高性能の戦力は使わないと言いつつも、ある状況に陥ったときにはやはり使ってしまうということです。
持っていてそれしか現状を打破しなくてはいけないとき、どんなに非情であってもそれを使ってしまうのです。
イラク戦争のときにもスマート爆弾(地下にこもった敵を狙い撃ちする爆弾)みたいなものは非人道的であるといわれましたが、やはり使われてしまいましたし。
本作に悲しさがあるのは、その高性能兵器が、ただの少年であるということです。
その少年を平気にするために、半右衛門は非情な行いをしました。
それにより半右衛門も苦しみます。
そして半右衛門は最後は、その苦しみから脱却するように、再び己の命をかけようとするのです。
半右衛門は最後に侍らしい生き方を選択するのです。
本作は読みやすい本ですが、半右衛門のような状況になった時、自分はどのように行動するのか。
どういう風に選択するのか、と考えさせられる作品でもありました。
もちろん、エンターテイメント小説として読んでも面白いですよ。

「小太郎の左腕」和田竜著 小学館 小説 ISBN978-4-09-4-8642-3

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