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2011年12月29日 (木)

本 「震災後 -こんな時だけど、そろそろ未来の話をしようか-」

「亡国のイージス」等の作品で知られる福井晴敏さんの小説です。
タイトルからわかるように東日本大震災を真正面から取り上げた作品となっています。
小説の体裁ですが、震災後の日本人への福井さんからのメッセージとなっていると思います。
あまり知られていないかもしれないですが、福井さんは3・11前に大震災を扱った小説「平成関東大震災 いつか来るとは知っていたが、今日来るとは思わなかった」を発表しています。
この作品では、大地震に襲われた東京で帰宅困難者が大量に発生すること、また情報が錯綜しどのように行動すればよいかわからなくなること、などが一般市民の目線から描かれています。
僕はこの小説は震災前に読んでいたのですが、震災時にはこの作品で描かれていることがほぼ予言めいたように起こっているので、たいへん驚いたものでした。
副題にあるように僕自身も「いつか来るとは知っていたが、今日来るとは思わなかった」だったのです。
おそらく福井さん自身も驚いたのではないでしょうか。
そしてその後の日本の混乱に対して何かしらメッセージを出したいと考えたのかもしれません。
それが本作なのだと思います。
「平成関東大震災」で描かれておらず、現実の東日本大震災で起こったこと、それは原発の問題です。
現在進行中の課題でもあり、原発を再稼働するべきか否かについてはまだ論議が分かれていると思います。
「あんな危険なものはもういらない。」
「なくした場合は代替エネルギーはどうするのか。」
「太陽エネルギーなり、風力エネルギーがあるのでは。」
「安定供給が見込めないし、コストがかかる」
などなど。
しかし、福井さんが危惧しているのは、原発問題からくる「進歩」への忌避の考えです。
スローライフではないですが、昔のような生活に戻ればいいではないかという意見があります。
しかし現実的にそういうことが可能なのか。
そういう考えが出てくるのは科学万能という考え、安全神話という考えに対するアンチテーゼであることであると思います。
確かに科学を無制限に信じ過ぎることは危険です。
しかし、科学やその進歩というものまでを否定するというのはいきすぎではないかと福井さんは言っているように思います。
もともと科学の進歩というのは、人間を理不尽に襲う死というものから、その悲しみから救いたいという人間の意志から起こったものではないかと福井さんは考えます。
病気や、災害、人の命を容赦なく奪う出来事があります。
それをなんとか人のコントロール化に納め、理不尽な悲しみから救うというのが科学の出発点ではないかということです。
いつしかその科学の力をコントロールできなくなってしまっているのですけれども、それならばそれを反省し、また進んでいけばいいということなのです。
科学そのものを否定し、拒否した時、それでは病気や災害に対し人はまた無防備になってしまうわけなんですよね。
この時期大切なのは、人は未来を描き進歩をしながら、少しでも理不尽な悲しみを少なくするということを止めないということなのでしょう。
今、若い人が「闇」に囚われていると福井さんは書きます。
それはもう彼らにこの国の、自分の未来が描けないからということです。
震災だけではなく、財政の問題など、前の世代から負の遺産ばかりを受け取ってしまう。
だから未来を考えられない。
けれどやはり未来を考えなくてはいけないのです。
今、この時代たいへん厳しい時代であるのは確かです。
でもそういうたいへん厳しい時期は今だけかというとそうではありません。
太平洋戦争直後の東京も、戦国時代の京都も、溶岩に流されたポンペイも、世界が終わったかのような状態であったのだと思います。
それでも人はなにか未来を描き、時間はかかりながらも、前よりも豊かで平和な世界を築いてきたのです。
だからこそ。
あきらめずに未来をみる。
考える。
そういうことが大事なのではないかと、福井さんは言っています。
だから「こんな時だけど、そろそろ未来の話をしようか」なのです。

「震災後 -こんな時だけど、そろそろ未来の話をしようか-」福井晴敏著 小学館 ハードカバー ISBN978-4-09-379824-2

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