「孔子の教え」 入門編としてはよいでしょう
「子曰く」で始まる言葉が記された「論語」は内容は別にしてほとんどの方がご存知でしょう。
ここで言う「子」とは孔子のことであり、「論語」とは孔子の死後、弟子たちが生前の孔子の言葉をまとめたものです。
「論語」の中の言葉は「温故知新」など日本で普段使われる言葉になっているものも多く、中国を始め朝鮮、日本など東アジア周辺国家へ文化や政治などへ影響を与えました。
孔子の教えは「儒教」と言われますが、「教」とあるゆえ宗教と思われる方も多いかもしれませんが、どちらかと言えば、生活の仕方、生き方の規範のようなものと言っていいでしょう。
僕が孔子に興味を持ったのは、幾つか歴史に関するものを読んだこともあるのですが、一番のきっかけは酒見賢一さんの「陋巷に在り」という小説を読んだことがきっかけです。
「陋巷に在り」は本作にも登場している孔子の弟子である顔回が主人公の小説ですが、当然のことながら孔子も登場しています。
この作品の孔子はそれまでにイメージしていた聖人君子とは違い、もっと野心的でかつ人間的な人物として描かれていました。
孔子が重用ししていた「礼」についても大胆に解釈しており、これはこれで非常におもしろかったです。
孔子に興味がある方は一度お読みになるのをお勧めします。
さて、本作ですが、孔子の後半生を順に淡々と描いていくという伝記的な物語となっています。
孔子はまさに大器晩成と地でいくような生涯で、出身国である魯の大司寇に就任するのは50歳を過ぎてからでした。
そのときの中国はいくつもの国が乱立している状態であり、魯も周辺国から侵略の危機を迎えていました。
けれどもその内政は三桓氏と
呼ばれる三つの一族の専横状態となっておりました。
大司寇となった孔子は大胆に改革を進め三桓氏の力を削ぎ魯公を中心とし、礼に基づいた政治へ改革をしようとします。
しかし三桓氏たちは逆に孔子を魯国から追放してしまいました。
その後、孔子とその弟子たちは十数年にも及び各国を放浪することとなるのです。
孔子の弟子で有名な人は何人もいますが、孔子は本作にも登場している才のある顔回(本作では凍った湖で亡くなった)を最も愛したと言われています。
顔回は孔子よりも若くして亡くなりますが、その際に孔子は「ああ、天われをほろぼせり」と嘆いたと言われています。
また子路は本作でも描かれているように高弟の一人ですが、やや乱暴でせっかちな人物として描かれることが多いですね。
本作にもあるように衛の高官となりますが、反乱で落命してしまいます。
本作はこのような孔子の後半生を淡々と忠実に描いています。
ですので、孔子という人物に興味を持ち、どんな生涯を歩んだかということを知りたいという方には最適な映画だと思います。
ただそのような事実を追っていくような伝記的要素が強いため、やや映画としてのドラマ性として観るとやや弱い感じがしました。
僕は本などで孔子の生涯は知っていたので、やや退屈な面もありました。
もう少し孔子という人物を「陋巷に在り」で行われたように、大胆に解釈し、彼の人間性へ新しいアプローチをしてくれると良かったかなと思いました。
諸星大二郎さんの「孔子暗黒伝」がおもしろいと聞いているので、こちらいつか読んでみたいと思います。

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苦境に追いやられながらも人々に伝えたい思想…礼と仁の徳による治世。しかし、ダイジェスト的に描かれているため一つ一つが少々散漫になっているのは仕方ないのかな。
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コメント
sakuraiさん、こんばんは!
「墨攻」も良かったですよね。
酒見さんは「後宮小説」からのファンなんです。
「陋巷に在り」もおもしろいですよ。
孔子は若い頃はあまり活躍してなかったので、やはりこの映画で描いていたところが一番物語にしやすいかもしれませんが、確かにちょっとだれ気味ではありましたね。
「陋巷に在り」だと三桓氏とのやり取りがけっこうボリュームありました。
投稿: はらやん | 2012年1月14日 (土) 21時02分
「陋巷に在り」は一冊だけ買って、まだ読んでません。
酒見さんの「墨攻」がよく出来てて、よし!と思ったんですが、ツンドクになってしまってます。読もうかなあ~。
もっと伝記伝記してるのかと思ったらかなり晩年を凝縮してましたね。若いころのこともあってもよ方ような気がしました。後半ちょっとだれてきたし。
やっぱ顔回ですよねえ。
顔回が大人で、彼の存在がいい塩梅で、なかなかよかったです。
投稿: | 2012年1月14日 (土) 15時11分