「とある飛空士への追憶」 ファンタジー版「ローマの休日」
神聖レヴァーム皇国、帝政天ツ上という東西の大国が対立する世界。
傭兵である飛空士シャルルは、神聖レヴァーム皇国の次期皇妃となるファナを王都へ送り届ける役目を命じられました。
ファナがいるサン・マルティリアは王都まで飛空機(この物語に登場する飛行機)でも3日ほどかかる距離ですが、シャルルが駆る飛空機は高性能であるものの兵装は機銃一門のみで、王都まで行くにはそれで敵中突破をしなくてはいけないという過酷な任務です。
3日という旅路の中で、ファナとシャルルは身分を越えて互いに惹かれあっていきます。
パンフレットを見ていたら本作の脚本を担当している奥寺佐渡子さんがこの作品を「ファンタジー版『ローマの休日』」目指して作ったとおっしゃっていました。
これを読んでなるほどな、と。
次期皇妃と、一介の飛空士の恋、まさに「ローマの休日」ですね。
「ローマの休日」も主人公は王女でしたから、本作のファナについて見てみましょう。
ファナは貴族であり、その美しさで皇国の王子に見初められ、プロポーズを受けました。
冒頭のそのシーンではファナは美しいのですが、表情に乏しく、親の命令に従順に従う女性のように見えました。
けれどもシャルルとの命をかけた旅の中で、明らかにファナは変わっていきます。
というよりも元のファナに戻っていったと言ったほうがいいでしょう。
実はシャルルとファナは幼い頃に会っており、シャルルの回想シーンにあるファナは快活でかつ慈悲深い少女でした。
おそらく親の厳しい躾により、ファナは従順な女性として生きていかなくてはいけなくなったのでしょう。
彼女にはそうあるべきであるという諦めのようなものがあったのかもしれません。
女は自ら決断し行動するものではなく、そのように生きるものなのだと。
しかしシャルルとのまさに命懸けの敵中突破の中で、ファナは目の良さを活かし敵機をいち早く発見するという才能を発揮します。
彼女にとって誰かのために「役に立つ」ということを初めて感じたときではなかったのではないでしょうか。
またファナは本心から自分を命懸けで守るという意志を持ったシャルルの心にも触れます。
「二人でなら敵中突破もできるはずだ」とシャルルは言います。
ファナの目、シャルルの腕でかろうじて二人は敵の包囲を破っていきます。
この誰かと「共に」何かを成し遂げるという体験も彼女にとって初めてであったのだろうと思います。
もともとは慈悲深い心を持ち、快活であった女性です。
彼女の本当の魂がこの旅の中で再び甦ってきたのです。
このような体験のあと、シャルルが負傷したとき、おそらくファナは自分がシャルルに惹かれているという心を自覚します。
そこから彼女は大きく変化します(髪を切った時ですね)。
彼女は今までは感じたこと思ったことを口に出すということはしなかったのでしょう。
しかし、髪を切ったあとのファナは思いを口にし、行動します(このあたり画の表現も上手で、特にファナの目力が明らかに変わって見える)。
ファナとシャルルは3日間の敵中突破後はやはりそもそもの身分としているべき場所に別れていきます(このあたりもまさに「ローマの休日)。
しかしこの旅の中で甦ったファナの凛として慈悲深い本質は、その後の二国間の争いを終わらすために大きな役割を担うということが最後に語られます。
そのような王妃を誕生させたのも「とある飛空士」との出会いであったわけですね。
この物語、ファナが両国を平和に導き、その後老いて孫に自分の若い頃の思い出話を聞かせているというような感じがしますね。
「おばあちゃんはね、とある飛空士さんと旅をしてね・・・」
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受信: 2012年4月 1日 (日) 10時06分
コメント
原作はあんなもんじゃありません。
映画はカットの嵐です。
世界観説明、作戦に至る経緯、天ツ上に対するレヴァームの人種差別、シャルルとファナの人格の背景、二人の心理描写、作戦を本気で妨害する帝政天ツ上海軍の追尾(戦闘シーン)、千々石との一騎討ちに至るまでの戦闘の推移、島でのエピソード、そしてタイトルの意味そのものである「終章」。
これらが全てカットされているか、あるいはかなり簡略化されています。
特に終章なんかは完全カットですね。
シャルルの母のエピソードも改編されていますし、作戦日程も2日ほど短縮去れています。
ハーフで傭兵、そんな信用できない立場のシャルルが何故作戦に選ばれたのかの説明もありません。
とにかく描写が不足しています。
是非とも原作、そしてシリーズの「とある飛空士への恋歌」「とある飛空士への夜想曲」も読んでください。
投稿: | 2011年11月 2日 (水) 13時36分
NAOさん、こんばんは!
実写だとその俳優さんの目力で演技ができてしまいますが、アニメはそれすらも描き上げなくてはいけないですからね。
そのあたりの計算はしっかりできていた作画でした。
NAOさんはシャルル視点でしたか〜。
僕はファナ視点でした。
まるで逆ですね(笑)。
投稿: はらやん | 2011年10月11日 (火) 22時27分
こんばんは~、はらやんさん♪
先日は、TBありがとうございました。
まさにファンタジー版「ローマの休日」でしたね
>もともとは慈悲深い心を持ち、快活であった女性です
そうなんですよね。回想シーンを観てる限りでは
本来は、明るく意志を持った女の子だったと思います。
シャルルと出会うことによって、再びよみがえった感じに
なるのですが、あそこまで変わるか?というぐらいの変わりようには少々驚き^^;
>特にファナの目力が
そうそう!目の描き方が激変してるので、あそこまで変わるとまるで別人です^^;
個人的には、シャルルのキャラがすごく良かったです♪
彼視点で常に観てしまいました
投稿: NAO | 2011年10月10日 (月) 22時05分