本 「ナニワ・モンスター」
海堂尊さんの新作を読んでみました。
新型インフルエンザ、改革派の府知事、大阪特捜部による厚労省官僚の摘発など、現実の事件を上手く取り入れていくのは相変わらず上手ですよね。
けれども現実とは違った展開をみせる巧みさも海堂さんならでは。
本を買ったときの帯には「新型インフルエンザが発生!」と書いてあったので、パンデミックに対する医療サスペンスかなと思って読み始めたのですが、話は想像をしていない方向に展開していきます。
今までの作品でも海堂さんの医療行政に対する意見というものが出ていたと思いますが、こちらの作品にもそれがうかがわれます。
行政どころか、医療行政から、さらには国のありようについても語られていきます。
そこで語られることは現実的ではないと思われるかもしれませんが、本作の中で彦根が語っているように、改革派でさえも現実の仕組みを変えられないと思っているからかもしれません。
既存の仕組みを根底から疑うことにより、その先の改革がある。
なかなか仕組みの根底を変えるというのは勇気とエネルギーがいるものですが、医療だけに限らずさまざまな出来事が今急速に変化している中、根本を見直すということは必要なのかもしれません。
語られることが荒唐無稽と言う前に、今ある仕組みの根底とはほんとうにそうでなくてはならないのかということを考えてみるというのがいいのかもしれません。
海堂さんの小説は、医療という堅いテーマを持っていながらも、読みやすいエンターテイメントとして仕上がっているのは今までも何回か触れてきたようにキャラクターの強さによるものが多いかと思います。
本作でも今までの作品なかでも特に個性の強い彦根、さらには敵役としての存在感がある斑鳩が登場しています。
あとあの白鳥もちょろりと顔を出すので、「桜宮サーガ」を読んでいる方は楽しく読めるのではないかと思います。
「ナニワ・モンスター」海堂尊著 新潮社 ハードカバー ISBN978-4-10-306573-9
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