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2011年8月13日 (土)

「復讐捜査線」 正義の揺らぎ

メル・ギブソンの久しぶりの主演作です。
「サイン」以来だとか。
有楽町でもやってましたが、あっという間に終わってしまったので、久しぶりに新宿歌舞伎町のミラノまで行ってきました。
歌舞伎町もずいぶんと映画館の数が減りましたね〜。

娘を目の前で殺された刑事の復讐の物語ということですし、メル・ギブソンなのでなんとなく「マッドマックス」のようにガンガン復讐していくのかと思いきや、けっこう深い物語なのでした。
ボストンのベテラン刑事クレイブンは、久しぶりに戻ってきた娘エマを家に迎い入れたのもつかの間、目の前で愛娘を射殺されてしまいます。
当初、それは刑事であるクレイブンを狙ったものと考えられましたが、彼が独自に捜査を進めていくと、それはエマが勤めていた企業ノースモア社に原因があるようだということがわかってきます。
ノースモア社はある不正を行っており、それを告発しようとしたエマの口封じを行ったらしい。
この物語で語られるのは「正義」。
邦題から連想するとすぐに父親の復讐劇となってしまう感じがしますが、本作はそうはならない。
クレイブンは刑事だけあって、エマの死の真相をつかむためひとつづつ堅実に事件の真実の姿をさぐっていきます。
彼は刑事であり、彼がなさなければならない「正義」の執行のために、基本的には復讐心では暴走しません。
ただ彼はこの事件により、ひどく自分の「正義」というものに揺らぎが生じたのではないかと思います。
エマは彼がおそらく男手ひとつで育ててきた愛娘。
彼女も父親と同様にとても正義感の強い女性に成長したのだと思います。
ですので、ノースモア社の所行を知っても知らないふりをしている者たちもいるなかで、彼女は告発という手段を実行しようとします。
しかし、そのために彼女は殺されてしまうのです。
クレイブンはひどく悔いたでしょう。
彼の性格からして、娘に「正義」というものを守ることがいかに大事であるかということを教えたに違いないのです。
自分の信じる「正義」は間違っていないと思いつつも、それを娘にも教えたことを悔い、苦しんだのではないかと思います。
ノースモア社は軍需産業であり、政府と深い繋がりがあります。
ですので関係者は、みな自分自身が危険に曝されることを恐れ、口をつぐみます。
クレイブンの同僚ですらそうです。
ノースモア社の幹部や、弁護士、政府の役人、国会議員たちは、国家のための「正義」をふりかざし、極秘の活動のために人の命を奪うことも平気で行います。
本作で主人公クレイブンの他に、存在感のある人物が登場します。
ジェドバーグという男ですが、どうも政府の企みを隠蔽するプロフェッショナルのようです。
彼はその任務のためには躊躇なく人を殺すことができます。
けれども彼は映画の中によく出てくる諜報機関の暗殺者のステロタイプではなく、基本的には必要でない場合には人を殺しません。
ジェドバーグは政府の役人からこの事件に関わることを隠蔽するように命じられ、そのために行動しますので、立場としてはクレイブンと対立する存在になるわけです。
けれども彼はクレイブンを殺すチャンスはありながらもそうしません。
クレイブンを殺すことにより事件がセンセーショナルになり、政府にとってはより秘密を守りにくくなるというのが、彼のプロとしての判断であったのでしょう。
けれどもそうだけとも言えないかと思います。
ジェドバーグも彼が信じる「正義」のために戦ってきた男なのでしょう。
それは国家を守る=正義という図式であったのだと思います。
けれども本作で描かれる事件を通じて(実はそのまえからずっとかもしれない)、その国家を動かす人びとたちがいかに愚劣であるかというのを見てしまい、自分を信じている「正義」の正当性について、彼も揺らいだのではないかと思います。
ジェドバーグは立ち位置こそ違い、クレイブンが「正義」を貫こうとする姿に、共感を感じたのではないでしょうか。
クレイブンにしても、ジェドバーグにしても自分の信じる「正義」について、揺らぎながらも、最後まで(文字通り人生の最後まで)それを貫き通したのですよね。
このジェドバーグという登場人物がいるおかげで、この作品は単なる復讐劇ではなく、「正義」を貫くことということについて考えさせられる作品になったと思います。
ラストシーンは悲劇ではあるのだけれど、父と娘が手をつないでいく姿になにか救われるような気持ちになりました。

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