本 「しかたのない水」
普段はあまり読まないタイプの小説です。
なんとなくタイトルの雰囲気に不思議なものを感じたので手に取りました。
本作はあるフィットネスクラブに集まる男女の恋というか、情事にまつわる短編連作集です。
登場人物の生き方や考え方へはなかなか全面的に共感しにくい部分もあるのですが、ある一部の黒い部分については心のどこかにはあるのかもしれないと思いました。
そういうふうに行動するかどうかは別にして。
そういうところは文庫の巻末にある解説にあるように大人の小説と言えるかもしれません。
登場人物はそれぞれ自分の中にある黒い部分について自覚はあるものの、それをどうしようともしません。
できないのか、しないのかというところも、彼ら彼女らにはあいまいなのかもしれません。
それがタイトルの「しかたのない」という言葉によく出ているなと思いました。
このようになってしまった自分、このようにしてしまう自分、そうなってしまったのも「しかたのない」と。
「水」という言葉も、「低きに流れる」ではないですが、自分の中の黒い部分に抵抗するわけではなく、なんとなくそれに従って生きてきて、今の自分になってしまったというようなニュアンスがでているなと思います。
その二つの言葉があわさって「しかたのない水」となると、また違った種類の言葉の反応みたいなものが起こり、不思議な雰囲気がでています。
秀逸なタイトルの付け方だなと思いました。
「しかたのない水」井上荒野著 新潮社 文庫 ISBN978-4-10-130252-2
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