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2011年6月18日 (土)

「さや侍」 松本人志に泣かされた

「大日本人」「しんぼる」と奇作を発表している松本人志監督。
新作は時代劇、それも主人公は刀を持たない侍で、それを演じるのは誰だかわからんおっさん(松本さんの番組に出てた方のようですね、バラエティ見ないので知らなかった)ということなので、また変化球でくるかと思ってました。
確かに本格時代劇とは違って、チャンバラがあるわけではないですし、松本さん監督らしい笑いなどはあるのですが、物語はしっかりとした父と娘になっていて、最後の坊主が読む手紙のところでは泣かされてしまいました。
まさか、松本人志さんに泣かされるとは・・・。
松本さんの今までの作品は奇妙奇天烈な設定、世界観がありました。
本作は「30日の行」という奇妙な設定がありますが、それ以外はまっとうな時代劇の設定です。
奇妙なのは世界というよりも、主人公である野見自身です。
彼は侍でありながら、さやしかもたない男で、何かから逃げ続けているように見えます。
劇中しばらくは彼は一言も話さないので、正直何を考えているのかわからない男です。
捕らえられ「30日の行」という不条理な役割を負わされても、彼は淡々とそれを受け入れます。
というより抵抗する力がないというような感じでしょうか。
彼は妻を流行病で失ったという事実が途中で明らかになります。
そして、刀を捨てたことも。
これは描かれていないですが、野見は侍としての大事なお役目をしていて、その中で大事な妻を失ってしまったのではないでしょうか。
彼はその当時は侍としての自負を持っていた男のように思います。
しかし妻を失うことにより、侍として生きてきた自分自身にも疑問をもってしまったのかもしれません。
そういう彼を、娘のたえは「侍らしく生きてくれ」もしくは「侍らしく死んでくれ」と言います。
おそらくたえは昔の父から「侍らしく生きること」を教わったのではないのでしょうか。
けれどその父は、母を失ってからは逃げていくことしかしない。
たえからさえも逃げようとしている(オープニングのシーンから)。
それをたえは父が変わってしまったというように思っていたのでしょう。
けれど野見の中で、侍の心が全くなくなったわけではなかったのです。
刀身はなくとも、さやという刀の一部は大切にしているということ。
不条理とはいえ、与えられた役割を淡々と行っていくということ。
そして憐れみ、施しを受けるくらいであれば、誇りを持って死ぬということ。
彼が最後に死を選んだのは、やはり侍としての誇りを守るためであったのでしょう。
たえが意味じくも言ったように、あのまま殿様の憐れみを得、生きたとしても、それはもう侍という存在ではありません。
野見は「30日の行」をたえと共に行うことにより、次第に侍としての誇りを再び心の中にともしていったのだと思います。
すばらしかったのは、たえを演じた子役の熊田聖亜ちゃん。
初めて見ましたが、とても演技が上手で感心しました。
うだつのあがらない野見にむかって厳しい言葉をはく前半の演技。
淡々と役目をこなしていく父をサポートしようとする健気さ。
何よりも個人的にやられたのは、最後野見が切腹に向かうシーンです。
オープニングからわかるように、距離感のあった父娘の距離が縮まり、野見がたえの手を握る場面です。
このシーンのたえが、ほんとうに嬉しそうで。
ずっと頼りにならない父を励まし、支えて気丈にしていたたえが、このときばかりは本当に幼い娘になり父親といっしょにいることが心底嬉しいという笑顔に見えました。
まず、このシーンで泣かされ。
そして最後の手紙のシーンで泣かされ。
奇妙奇天烈な時代劇になるんじゃないかという当初の予想は外れ、思い切りまっすぐな父娘のストーリー、そして男の誇りについての物語にやられました。
うーん、やっぱり松本人志という男は一筋縄ではいかないですね。

松本人志監督「大日本人」の記事はこちら→
松本人志監督「しんぼる」の記事はこちら→

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