本 「マルドゥック・スクランブル」
冲方丁さんのSF小説です。
昨年映画化もされたので、ご存知の方もいらっしゃるのでは。
出版された頃から、ウィリアム・ギブスン的な文体(正確にはウィリアム・ギブスンの翻訳文体)で日本初のサイバーパンク小説として話題になっていたと思います。
SFファンとしては、その存在は知っていましたが、ずっと手にとれていませんでした。
というのいうのも、実はサイバーパンク小説というのは、苦手意識がありまして。
サイバーパンクの世界観は嫌いではないんです。
映画でもサイバーパンク的な世界観(「マトリックス」や「攻殻機動隊」のような)は好きですので、観に行ってしまいます。
ですが、小説ではサイバーパンクが苦手なのは、その文体が僕にとってはとても読みにくいものであるからです。
その文体こそがサイバーパンク的なのですが、どうもそこに取っ付きにくさを感じてしました。
ですので、それほど積極的に本作を読もうというつもりにはならないのですが、第一巻の「圧縮」を読むことになりました。
読んではみましたが、やはり強くサイバーパンクを意識した文体の冲方さんの書き方にどうにも馴染めず、読み進めるのもえらく難儀したのを記憶しています。
ですので、第二巻、第三巻まで読むのにしばらく時間が経ってしまいました。
それでようやく第二巻を書店で買ったのですが、それには「完全版」と書いてありました。
出版後10年が経ち、冲方さんが大幅に加筆修正したものになっているということです。
とはいえ、それほど内容は変わらないだろうと読み始めたのですが、かなり印象が違います。
いやストーリーや世界観はあまり変わっていないのでしょう(オリジナルと読み比べたわけではないので、定かではないですが)。
ですが、すごく読みやすくなっている。
ある種サイバーパンクというジャンルは非常にマニアックで閉じこもった感じというあったのですが(それがサイバーパンクらしいところではあるのですが)、それがかなりオープンに、というか誰ででも読みやすい感じになっています。
オリジナルは、作者の思いの丈をぶち込んでエネルギッシュに書き上げられたもので、その熱量は感じますが、それがうまく消化しきれていないというか、燃焼しきれていないというようなもどかしさを僕は第一巻で感じました。
その後第二巻から<完全版>を読みましたが、そのもどかしさみたいなものはきれいに払拭されていたと思います。
非常にマニアックな世界を描き、サイバーパンク的な風味は十分にありつつも、閉じ困らずオープンに開かれた印象を持ちました。
このあたりは作家生活を10年続けた冲方さんのスキルの充実が感じられました。
個人的には<完全版>という売り方は、ちょっとの変更でファンに二度買わせるというような商売っ気を感じて好きではないのですが、本シリーズについては<完全版>は書かれるべくして書かれたのだというふうに思いました。
「マルドゥック・スクランブル -圧縮-」冲方丁著 早川書房 文庫 ISBN978-4-15-030721-0
「マルドゥック・スクランブル -燃焼-<完全版>」冲方丁著 早川書房 文庫 ISBN978-4-15-030015-8
「マルドゥック・スクランブル -排気-<完全版>」冲方丁著 早川書房 文庫 ISBN978-4-15-030016-5
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