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2010年12月18日 (土)

本 「無痛」

現役医師でミステリー作家というと、「チーム・バチスタの栄光」の海堂尊さんがあげられると思いますが、本作の著者である久坂部羊さんも現役医師でミステリー作家です。
医療を題材にしたミステリー(海堂さんはミステリーじゃない作品も多いですが)という点では共通点がお二人にはありますが、そのテイストはかなり違っています。
海堂さんの作品はミステリーというよりはエンターテイメントというところにあります。
題材は現代医療に関する諸問題を扱っていますが、その読み口は軽快で読みやすい作品となっています。
ある種、快刀乱麻を断つ的な爽快感もありますので、医療などについて不案内でもまったく問題はないでしょう。
どちらかと言えば、医療問題をエンターテイメントのオブラートに包み、楽しみながら医療に関する課題に視線を向けられるといった感じでしょうか。
対して久坂部羊さんの作品は扱っている題材自体が医療に関する問題の中でもとても重いものを扱っていますし、ところどころショッキングな描写で読んでいる本を置きたくなるようなところもあります。
ですが、どのように物語が転がっていき、どのような結末が訪れるのかがわからないので、読むのを止められないといった感じがあります。
本作が扱っている題材は刑法三十九条で、これは「心神喪失者の行為は、罰しない。心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する」と言った内容です。
よく裁判でも残酷な事件であったりすればするほど刑法三十九条が持ち出されることが多いのは、ニュースなどで知っているかたも多いでしょう。
法律の狙い自体は弱者保護なのですが、本作ではそれを悪用しようとする者がでてきます。
つまり精神障害を装い、重大事件を起こそうという輩です。
情報化社会となった今、今までの判例やこういった病気の症例もすぐに集めることができます。
そういうことを勉強し、装うことができたとしたら、それは見破ることができるのか。
そもそも正常者と異常者の境界線とはどこなのか。
非常に難しい問題を扱っているため、読んでいるときの感覚は非常にヘビーです。
また医療者の治療することによる自己満足のようなことに触れており、著者も医療者でありながら非常にシニカルな視線を持っていることが感じられます。
このあたりは海堂さんと大きく違う感じがします。
終わり方としても海堂さんのようなスッキリとした終わり方ではなく、もやもやとしたものが残るところがあります。
これはすっぱりときれいに切ることができない現代医療の複雑さというのを表しているのかもしれないと思いました。

「無痛」久坂部羊著 幻冬社 文庫 ISBN978-4-344-41198-2

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