本 「すべてがFになる」
新世代のミステリー作家と言われている方のひとり、森博嗣さんのデビュー作「すべてがFになる」を読みました。
森さんのミステリーは、登場人物が理系だったり、作者ご本人が工学博士であったりということから、理系ミステリーと言われることが多いです。
確かにミステリーの謎解きのところではコンピュータを使ったトリックであったり、理路整然とした論理であったりといったところは理系の趣はあります。
ただ論理自体は理系的でもなんでもなかったりするので、これで理系というのもどうかと思ったりもしますが。
森さんを個性的にしているのは、たぶん人間の関係性の捉え方が現代風なのだからかなと思いました。
ミステリーというのは、そもそも起こる事件というのは欲であったり、情愛だったりと言った人間の感情が根っこにあります。
それこそドロドロとした人の感情があるわけですね。
でも森さんのミステリーではそういう情念といったものはあまり感じません。
本作でも登場人物に”天才”と呼ばれる人が登場します。
その人は”天才”であるがゆえに一般的な人間の感情や考え方から自由なんですね。
その行動には感情といったものはあまり感じない。
というよりは感情といったものを探しているようにも見えます。
主人公の一人犀川はどちらかというと人と接触することを厭う感じがあります。
彼は「情報化社会の次に来るのは、情報の独立、つまり分散社会だと思うよ」と言います。
また「自分にとって都合の良い干渉とでもいうのかな、都合の良い他人だけを仮想的に作り出してしまう」とも言います。
これは人が他人に干渉し、されることすらなくし、それぞれが自分にとって都合の良い仮想的社会で独立して生きるかもしれないということです。
この作品が書かれたのは1996年なのでずいぶん前ですが、現代の状況をみると犀川が言っていた社会の方向性に向かっているような気もします。
けれども他人と干渉しあわなくなったとき、そこには感情の軋轢がなくなるわけですから、そもそもミステリー小説といったものが成立しなくなっていくような気もします(そういう「干渉」に憧れて読むということはあるかもしれませんが)。
森さん自身も小説家はいずれ辞める、人知れず地味に静かに消えたいという発言をされているようです。
このあたりの感覚は本作の犀川にも通じるものがあり、このキャラクター自身に作者が反映されているような気がします。
読んでみて、確かに気になる作家さんであると思いましたので、これからすこしづつ作品を追っかけていきたいと思います。
「すべてがFになる」森博嗣著 講談社 文庫 ISBN4-06-263924-6
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コメント
たいむさん、こんばんは!
はい・・・手を出してしまいました。
ずっとどうしようかなーと思っていたのですけれど。
京極さんとの類似性を指摘する方多いですね。
確かに向こうは妖怪、こっちは電脳ですけれど、観ているものが確かではないかもしれないっていうところは共通しているかもしれません。
投稿: はらやん(管理人) | 2010年12月24日 (金) 23時13分
このシリーズに手を出されましたか~~
先は長いですが、読破されますか?(^^)
わたしの場合は犀川先生は大好きだけど、萌絵が苦手でね。でも一度読みだすと止まらないです。
「四季」シリーズまでいれるとかなりの冊数になりますし、他のシリーズともリンクしているので、世界観は京極ワールドに近いです。
頑張ってください!!
投稿: たいむ | 2010年12月24日 (金) 20時23分
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投稿: 日本インターネット映画大賞 | 2010年12月24日 (金) 00時17分