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2010年10月24日 (日)

本 「アリアドネの弾丸」

「このミステリーがすごい!」大賞受賞で注目を集めた「チーム・バチスタの栄光」の田口・白鳥シリーズの第五弾になります。
「このミス」をとったと言っても「バチスタ」以降はミステリーではないのですけれどね。
でも本作「アリアドネの銃弾」はこのシリーズでは久しぶりのミステリー仕立てになっています。
ミステリーではありますが、ガリガリに構築されたミステリーと言ったわけではないので読みやすいかと思います。
本作で起こる事件は司法・警察VS医療・市民という構図として描かれます。
実際に医療が市民側かというと疑問もなくはないですが、司法が場合によっては事実すら改変しようとする力を持っているということを指摘しています。
本作のバックボーンには、冤罪と確定した足利事件があります。
足利事件で問題となったのは、警察と検察が自分たちで作ったストーリーに従って、事件を構築しようとし、それを実際にそうしてしまったことです。
DNA判定という方法が司法側しか行使できなかったとしたら、改ざんもしくは(意図的に)間違った解釈をされたデータを信用させられてしまうことを防げないということです。
本作シリーズではその新しい検死の方法がエーアイになるわけですが、それを司法側は自分のコントロール下に置きたくなるわけです。
先ほど本作のバックボーンには足利事件があると書きましたが、今この作品を読むと別の事件が思い浮かびます。

 捜査や司法は、真実よりも、真実らしく見える方を重視する。真実をつきとめるより、過去の事象を自分たちのストーリーに当てはめ、それに合わせて事実を改変する。

これは本作の中の一文です。
足利事件だけではなく、印象がまだ強い大阪地検の改ざん事件を思い出させます。
本作の事件を起こすのは物語を読み始めればすぐ見当がつくように、警察側です。
彼らが起こした事件がリアリティがあるかどうかは別にして、司法側の体質について、あたかも大阪地検の事件を予言したかのような題材はドキリとしますね。
大阪地検の件があったとき誰しも思っていながら口にしていませんが、「同じようなこと、今までもあったんじゃないか?」という疑問がわき上がります。
そういう疑問を払拭するためにも、司法側はやはり情報をオープンにし、できうる限り自分たちのしていることを知らせるということをしないと、彼らの組織、そして社会制度そのものの危機になるということを認識してほしいものです。
そういう意味で、本作はものすごくタイムリーなタイミングで出版されたものだなと思いました。

小説「チーム・バチスタの栄光」の記事はこちら→
小説「ナイチンゲールの沈黙」の記事はこちら→
小説「ジェネラル・ルージュの凱旋」の記事はこちら→
小説「イノセント・ゲリラの祝祭」の記事はこちら→

「アリアドネの弾丸」海堂尊著 宝島社 ハードカバー ISBN978-4-7966-7741-7

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コメント

たいむさん、こんにちは!

ほんとタイムリーな題材でした。
人間というのは分かりやすい話を好むというのは、確かにあると思います。
だからこそ、好みに左右されない証拠固めが大事になるんですよね。
ただその証拠というのが司法側に一方的に管理されているところは、司法が善であるということを前提にしているので、昨今の事件はそれを揺るがすものであって、そうとうに大きな出来事なんですよね。
そうじゃないと、本作のように司法以外にも証拠を扱える第三者機関(こちらでいうとエーアイセンター)みたいなものが必要ということになってしまうのですよね。

投稿: はらやん(管理人) | 2010年10月31日 (日) 09時46分

こんにちは!
ほんと「筋書き通り」を絶対のものにしようとするところは、昨今の逮捕劇と被りますね~。
裁判員制度でも、多少なり裁判官が誘導めいた形に進む傾向があったとか新聞に出てたし、長年の悪しき習慣というのか人間だなぁ~って思うところです。

田口・白鳥コンビは愉快でしたが(^^)

以下、変更後に削除してください。
タイトル、間違ってますよ(^^)

投稿: たいむ | 2010年10月30日 (土) 18時54分

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