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2010年10月31日 (日)

「12人の優しい日本人」 合意へのプロセス

この映画を初めて観たのは大学生のときなので、もう20年近く前になります。
三谷幸喜、という脚本家の存在を知ったのもこの作品でした。
本作は「もし、日本に陪審員制度があったら」というIFの設定で作られた、ワンシュチュエーションコメディになります。
舞台となるのは陪審員室のみ。
シドニー・ルメットの「12人の怒れる男」をモチーフにしているというのは皆さんもご存知でしょう。
「12人の怒れる男」をモチーフにしながらも、日本人らしい、流されやすさ、事なかれ主義、仕事優先といった性格を活かして上手く組み立てられたコメディに仕上がっています。
僕はこの作品、今まで何回観たかわからないほど観ているのですが、何度観てもおもしろい。
キャラクターの性格、事件の真相、そして裁判の判決が、大小の伏線をふくめ何度も観ていると周到に組み立てらているのがわかりますが、ただ初見でも頭がこんがらがるようなことはありません。
あくまでコメディとしてしっかり楽しめます。
また評決が有罪になるか、無罪になるかという展開も眼が離せず、ハラハラとした展開も楽しめます。

さきほど、「もし、日本に陪審員制度があったら」というIFの設定で作られた、と書きましたが、今現在、これはIFではなくなっています。
裁判員制度が施行された今となっては、僕たちもいつ「12人の優しい日本人」の中で右往左往しているキャラクターたちと同様に、裁判に挑み、何かしらの答えを出さなくてはいけない立場になるかもしれないのです。
本作の中で、「私たちがこの場に集められたことには意味がある」といったようなセリフがあります。
集まっているのは、独身のサラリーマンであったり、バリバリのビジネスマン、普通のおばさん、おじさん、キャリアウーマン、品のいい紳士等々、それぞれ普通に生活をしていたら、一同に会することなどないメンバーです。
でも彼らそれぞれは別段特別な人たちではありません。
違う人生、違う生活を生きてきた人たちが集まり、それぞれの経験や知恵を活かしながら、評決にたどり着いていく様はある種の爽快感があります。
またよく出てくる「話し合いましょう」というセリフがあります。
これは日常でもよく出てきますが、ほんとに「話し合う」ということって実はあまりなくって、意見の押し付けあいになっていることがしばしばです。
腹を割り、目的意識を共有し、相手の意見を聞きつつ、最前の答えを出すというのが、「話し合う」ことの本質です。
さきほど言った爽快感というのは、この目的意識を共有し、最前の答えを出すというところにあるのだと思います。
日常でも意見が合わないというのは、まず目的意識の共有ができていないということが大きい。
これを手探りでもいいから、だんだんと共有していくのが大切なのですよね。
本作はそのようなまるで生き方もなにも違う人たちが一つの目的を共有し、そして最前の答えを出そうとあがくプロセスを見せてくれるところが、ハラハラもし、観ている側もぐっと気持ちが入っていくところだと思います。
この物語での目的とは「すべての陪審員が納得し、有罪か、無罪かを確定する」といういうこと。
その前提条件として「推定無罪」と「証拠重視」があります。
最初は陪審員の判断基準は極めて不明確でした。
けれども話し合いをする中で、次第に目的とその前提条件の確認が合意できていったのです。
この作品で描かれている合意へのプロセスは裁判に限った話ではなくて、仕事でも家庭でも学校でも、何か問題を解決しようとするときにも言えることなんですよね。
大きく言ってしまえば、国同士の関係もそうかもしれません(最近の日中のごたごたはこの合意形成をするのがとても下手であることを露呈している)。
なんかどうもうまく意見がまとまらないというときは、まずは目的意識を共有できているか、前提条件はなになのかということを再確認するべきでしょう。
「三人いれば文殊の知恵」じゃないですが、何か自分では思いもつかないような素晴らしい答えがでてくると思います。

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