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2010年9月13日 (月)

本 「後巷説百物語」

京極夏彦さんの「巷説百物語」シリーズの3作目となります。
前作の舞台となっていた幕末から時は流れ、本作では時代は明治の開花の世となっています。
このシリーズの語り手であった山岡百介は一白と名乗り、かつて江戸であった東京の隅で静かに余生を過ごしていました。
そこへ不思議な事案について喧喧囂囂となった四人が古今の不可思議な出来事について詳しい一白に助言を求めにやってきます。
そこで語られるのは、一白が百介であったころ、小股潜りの又市たちと共にであった不可思議な物語です。

ちょっとこの作品の感想とは異なってしまうのですが、読んでいてふと思ったことを。
京極夏彦さんとともに、大沢オフィスに所属する作家に宮部みゆきさんがいます。
お二人とも僕が好きな作家であり、作品中に「不思議な出来事」が起こることが多いのが共通しています。
宮部さんで言えばそれは「超能力」であったり、京極さんであれば「妖怪」であったりするのです。
けれどもその「不思議な出来事」に対するお二人のスタンスというか、扱いは全く違うものであることがおもしろいなと思いました。
宮部さんのミステリーはしっかりと理屈立てされている本格的な(本格派ではない)ミステリー作品です。
基本的には現実的なミステリーなのですが、そこに「超能力」といったかなりミステリーとは違和感のある要素を宮部さんは持ってきます。
けれどもその超能力でさえ、作品中では現実的に消化して、きちんとミステリーと仕上げるところが宮部さんのすごいところです。
宮部さんが描くのは現実的な世界を舞台にしたミステリーです。
けれども「超能力」のような「不思議な出来事もあるかもしれない」という扱いをしているんですね。
対して京極さんの作品は「妖怪」などの「不可議な出来事」が起こるように見えながらも、そこには何も「不思議な出来事などない」というスタンスなのですね。
「妖怪」などの「怪し」は人が自分の心のなかに「妖怪」を観てしまうことにより、「起こったように感じる」としているのです。
「不思議な出来事」に対するスタンスは違えど、それによってお二人が描くのは人間の心の闇と光の部分です。
お二人の作品にはほぼ非常に黒い心を持った人と、純な心を持った人が登場します。
宮部さんの作品では「超能力」=「不思議な出来事」は純な心を持った人に由来することが多いのに対し、京極さんの作品では「妖怪」=「不思議な出来事」は黒い心を持った人に帰することが多いのですよね。
この辺りの対比はおもしろいように感じます。

えらく脱線してしまいました。
本著の解説で小野不由美さんが、本作が「巷説百物語」シリーズと「京極堂」シリーズを繋いでいるということを書いていました。
確かにそうかもしれません。
「巷説百物語」「続巷説百物語」は「いると思っていた妖怪」が「実はいない」んだよという構造。
裏にはからくりがあると。
「京極堂」シリーズというのは「いないと思っていた妖怪」が「実はいる」ように見えて、「やっぱりいない」という構造です。
2回ひねっているんですね。
そこにあるのは江戸から昭和という時代の変化であり、その間には大きな時代の変化が二つあります。
一つは明治維新であり、もう一つは太平洋戦争です。
この二つの出来事はそれまでの日本人の価値観を大きく変えたしまった出来事です。
太平洋戦争の影響は「京極堂」シリーズで語られていますが、もう一つの大きな出来事である明治維新については本作で語られました。
江戸、明治、昭和と日本人の価値観がひっくりかえる変化を本作が繋いだとも言えます。
よく考えれば京極さんの作品の「妖怪」はその人物の価値観がひっくり返る瞬間の狭間に出現します。
まさに本作が明治を舞台にしたのは必然であったのかもしれません。

京極夏彦作品「続巷説百物語」の記事はこちら→
京極夏彦作品「前巷説百物語」の記事はこちら→

「後巷説百物語」京極夏彦著 角川書店 文庫 ISBN978-4-04-362004-3

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