「仮面ライダーW」 いつまでも「二人で一人の仮面ライダー」
平成仮面ライダーの第11作となる「仮面ライダーW」が、本日最終回をむかえました。
今までの10作の中でも名作は数多くありましたが、「W」は個人的には最高傑作と言ってもいいくらいの作品として幕を閉じたと思います。(思い入れが強いのでこの後ムチャクチャ長いです)
正直「W」が始まる前は不安もありました。
10作品目としての「ディケイド」が今までの平成仮面ライダーに及ばず、昭和ライダーまで登場させた究極のお祭りとして仕上がっていたからです。
ここまでに大盤振る舞いをしてしまうと、その後の作品はどうしても小粒に見えてしまうのではないかと。
だいたい今までも様々なシリーズ番組は終盤に過去のキャラクターを総登場させるというような局面がありました。
その瞬間は良いのですが、その後どうしても続く作品を作りにくくなるのです(「ストロンガー」などもそうですね)。
「ウルトラマンメビウス」はその好例で「メビウス」自体は非常にいい作品ですが、その後やはりウルトラシリーズは間が開いてしまいました(「大怪獣バトル」という捻りを加えて復活しようとしていますが)。
ですから「W」は「ディケイド」の後というのは、かなり不利な状況ではないかと思っていました。
けれども実はもともと「ディケイド」の企画は、「W」の企画が始まった後に急遽立ち上がったということです。
ちょっと寄り道ですが、「ディケイド」の役割について少し書いてみましょう。
「すべてを破壊し、すべてを繋げ」が「ディケイド」のキャッチコピーでした。
これは物語の内容を表しているものでもありますし、メタ的な意味で平成仮面ライダーにおける「ディケイド」の役割を表しているものであると思います。
平成仮面ライダーシリーズの特徴はこちらのブログで何度も取り上げているように「革新性」です。
シリーズの今までのパターンに胡座をかくのではなく、常に革新を求め進化していく。
その「革新性」が平成仮面ライダーを長寿シリーズとしてきているわけです。
その中でも一つ重要であったのがドラマ性の重視姿勢です。
かつて昭和ライダーというのは、基本的には一話完結スタイルでした。
けれども「クウガ」以降、シリーズは一年間を通しての大河性というのを重視したスタイルになりました。
それが早くも完成されたのが「アギト」ですが、それにより大人にも観賞に耐えられる作品となったと思います。
しかしその「ドラマ性」というのは諸刃の刃でもあります。
「キバ」では二つの時代を並行して描くというチャレンジを行っていますが、これによりドラマ性はかつてなくあがったとは言えますが、非常に観にくくなってしまったということは否めません。
ドラマ性が強いため、どこかで一度脱落してしまうとついていけなくなるのです。
そうなると一年間というのは非常に長い。
そういう意味で平成仮面ライダーが背負っている「ドラマ性」という枠というのは、制約にもなってきたのです。
それを破壊したのが「ディケイド」であったのではないかと思います。
ある意味究極の「なんでもあり」状態にしてしまい、それで一度平成仮面ライダーというシリーズをリセットしたという役割があったのでしょう。
それが「すべてを破壊し、すべてを繋げ」というコピーに表されていたのだと思います。
そして一度リセットされた平成仮面ライダーを引き継いだのが、本作「仮面ライダーW」です。
本作の一番の特徴は「探偵もの」をモチーフにしているということもあり、「事件篇」「解決篇」の2話セットの構成というのを終盤まで頑に守ったというのがあげられると思います。
これは先に書いた「ドラマ性」の弊害、一度乗り遅れると途中乗車しにくいという状態をなくすことに繋がります。
途中でもエントリーしやすいというのは番組としては非常に大きなアドバンテージであったと思います。
だからといって、平成仮面ライダーが持つ「大河性」が失われているわけではありません。
縦軸としてフィリップの正体、園崎家との関わり、ガイアメモリとは何かといった謎は徐々に明らかになり、また提示されていき、全体としての物語の牽引力も併せ持っています。
特にラストにかけての数話は、最終回が3回ぐらいあるような怒濤の盛り上がりをみせていました(それでも2話スタイルを堅持していたのはすごい)。
平成仮面ライダーの近年の作品は設定の複雑さに伴い、最終回近辺が広げた風呂敷をしっかりと畳みきれていないところがある作品もいくつかありましたが、「W」はそのようなことはまったくありませんでした。
このあたりの「見易さ」と「大河性」の両立が「W」は非常に上手に行われていたと思います。
また「革新性」も失われてはいません。
やはり大きいのは「二人で一人の仮面ライダー」という設定でしょう。
もともとは左右の色が異なるというライダーのデザインが先にあり、その後「二人で一人」という設定ができたということですが、この設定は素晴らしかった。
「探偵もの」というモチーフにも非常にあっていたと思います。
バディものが多いですからね。
「ハードボイルド」に憧れる「ハーフボイルド」探偵の左翔太郎。
すべての知識を閲覧できる魔少年フィリップ。
翔太郎は直感と熱い思いで行動していくタイプであり、フィリップは得られるデータを元に推理していく言わば安楽椅子探偵であり、対照的なふたりですが、強い信頼感で結ばれています。
「バディもの」にはいくつも名作がありますが、翔太郎とフィリップはそれらと比べても遜色のないコンビであったと思います。
かけがいのない相棒である二人の揺るぎない信頼と友情は、今時の関係性が薄い人間関係の社会において清々しく見えます。
特にフィリップ、そしてもう一人の仮面ライダーである照井も、翔太郎の熱い思いに引っ張られるようにしだいに人間性を持っていくのが、子供たちにも何か訴えるものがあるようにも思えました。
翔太郎、フィリップ、そして照井の間にある信頼と友情というのは、もともとの「仮面ライダー」の本郷と一文字の間の関係にも通じるものがあるようにも感じます。
実は「W」は初代「仮面ライダー」にリスペクトしている部分も多くみられます。
まずはデザインに関してですが、「W」は左右の色が異なるという斬新なデザインになっていますが、そのシルエット自体は最近の平成仮面ライダーに比べて非常にシンプルです。
マスクなどもよく見れば、1号2号のようなデザインになっていることに気づきます。
そしてグリーンとブラックを基本カラーとしているのも初代仮面ライダーに通じます。
緑のメモリが「サイクロン(初代ライダーのバイクの名前)」であること、そして舞台となるのが風都であること(初代ライダーのエネルギー源は風力であった)などももともとのライダーへのリスペクトを感じます。
劇場版のところでも書きましたが、そして最も大きな初代へのリスペクトは「正義の味方」であることでしょう。
特に翔太郎は、風都を愛し、その住民を守るために戦います。
翔太郎は確かに「ハーフボイルド」かもしれない。
けれども彼は「やさしさ」と「強さ」を持っています。
弱きを助け、悪しきを挫く、そういうかつての仮面ライダーやその他のヒーローが持っていた心を翔太郎は持っているのです。
今の時代、「やさしさ」を「弱さ」ととらえる向きもあるかもしれない。
けれどフィリップが言うようにやはり「やさしさ」は「強さ」なのです。
風都のために戦う、翔太郎やフィリップ、照井が変身した姿を住民たちは「仮面ライダー」と呼びます。
住民にとって「仮面ライダー」=「正義の味方」なのです。
「仮面ライダー」という名に誇りを持ち、人々のために戦う彼ら。
今の時代にまっすぐに「正義の味方」であろうとする彼らがとてもカッコよく見えました。
かつてのヒーローはみなこういうカッコよさを持っていたのですよね。
そういうことを「W」は思い出させてくれました。
そうそう、亜樹子にも触れないわけにはいけません。
ヒロインらしからぬヒロインという亜樹子。
山本ひかるさんのポテンシャルがあったと思いますが、かつてないヒロイン像を作り出してくれました。
彼女の存在が物語の中でもアクセントになっていました。
DVD版にだけ入っている「左翔太郎妄想日記」の「もし亜樹子が○○だったら」は亜樹子らしさが炸裂していてとてもおもしろいです。
ちなみにその後に続く出演者によるトークもけっこうおもしろい。
山本ひかるさんは関西出身で、フィリップ役の菅田くんも照井役の木ノ本くんも関西。
翔太郎役の桐山くんだけ関東なんですね。
ですので、関西組3人はトークでは大阪弁まるだしでこれがけっこうおもしろい。
山本ひかるさんは普段のノリも亜樹子っぽいですね。
最初から最後までまったく勢いを衰えさせることなかったスタッフに脱帽です。
塚田プロデューサーは、戦隊ものでも「刑事」とか「魔法」とか「カンフー」とか異なるモチーフを持ってきてうまく融合させた実績があります。
今回も設定を聞いたときは「仮面ライダー」で「探偵もの」?っていう感じでしたが、もう今ではこれしか考えられないと思えるほどにしっくりとはまっていました。
脚本も非常に良かったと思います。
メインの三条陸さんは僕はほとんど初めてでしたが、キャラクター像を作り上げるのが非常に上手だなと思いました。
特にキメ台詞系は非常によくて「さあ、お前の罪を数えろ」などはしびれますよね。
2話構成で毎回推理もの、そして仮面ライダーとしてはバトルを見せなくてはいけないというけっこうな制約の中で毎回レベルの高いお話を書いていたと思います。
もう一人長谷川圭一さんも良かった。
長谷川さんは「ウルトラシリーズ」のライターというイメージが強かったですが、「W」でのお話もとてもおもしろかったです。
「ウルトラシリーズ」を長くやっていたせいか、今までの「仮面ライダー」ぽくない不思議なお話が多かったですよね。
パペティアーの回とかはけっこう好きでした。
最終回、フィリップが戻ってきてくれて良かったです。
寂しい顔は翔太郎には似合わない。
いつまでも「二人で一人の仮面ライダー」でいてほしいです。
いつかまた二人に出会えるときがあればいいですね。
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コメント
本・映画・色々さん、こんにちは!
最近の仮面ライダーはドラマとしてもしっかり作り込まれていますから、大人でも十分に満足できる作品が多いですね。
女性の方もファンが最近は多いですよね。
いわゆるイケメン俳優ブームのはしりも仮面ライダーシリーズからですから。
そんななかでも「W」はかなり出色の出来であったとおもいます。
今週から「オーズ」が始まりましたが、ちょっと微妙な感じ。
世界設定がやや複雑な感じがします。
投稿: はらやん(管理人) | 2010年9月 5日 (日) 17時01分
どうも、初めまして。
本・映画。色々というブログをやっている者です。
仮面ライダーWについて、非常に真剣に読ませてもらいました。
私は三歳の息子が仮面ライダーディケイドを観るようになり、つられて一緒に仮面ライダーを観るようになりました。
子供の頃には仮面ライダーは一切観ませんでした。
仮面ライダーWには、妻も大ハマリで、家族三人でテレビに釘付けでした。
やっぱり仮面ライダーWは最高傑作だったんですね。
最終回が非常に寂しかったです。
私も映画好きなので、これからも覗かせて頂きます。
投稿: 本・映画・色々 | 2010年9月 5日 (日) 02時11分
AnneMarrieさん、こんばんは!
お子さん、もう2歳ですかー。
vol.1から追っかけ観ているんですね。
特撮ものは1年という長期スパンでやるので、中には中だるみがあったり、物語が収拾つかなくなってしまうものもあるのですが、この作品は最初から最後までしっかりと作り込まれて、スキがなかったように思えます。
これからDVDもどんどんリリースされますから、楽しんでくださいね。
「サイクロン」とか「ジョーカー」とか声がでるガイアメモリは大人でも欲しくなります。
子供だったらなおさらですよね。
「オーズ」はメインの脚本を担当するのが、非常に上手な方なので僕は期待しています。
キャラクターを描くのも、物語を構成するのも長けた方なので、AnneMarieさんも期待してみてくださいね。
投稿: はらやん | 2010年8月29日 (日) 19時19分
おぶかさん、こんばんは!
キャスティングはみんなよかったですよね。
鳴海探偵事務所の面々も良かったですし、ミュージアム側も良かった(特に寺田農さんはすばらしい)。
「オーズ」はプロデューサーが武田さんで「キバ」でやや盛り込み過ぎでうまくいかなかったので、ちょっと心配なところはありますね。
でもメインライターが「龍騎」「電王」「シンケンジャー」で実績のある小林靖子さんなので、期待したいと思います。
投稿: はらやん | 2010年8月29日 (日) 19時08分
こんにちは!
私も今朝の最終回を観ました。
フィリップが戻ってきてくれて思わず「良かったね~」と2歳の息子ちゃんと抱き合っちゃいました。
子どもが興味をもちだしたのが7月なので、「W」デビューは先月です。
どんどん引き込まれているところで「最終回」と知ってすっごく残念です。
レンタルで1~観てる最中なんですけど、もう買っちゃおうかなーってくらいハマりそうです。
やはり子どもなんで「ベルトがほしい」とか「アクセルのブルンブルンが欲しい」とか言われておもちゃ屋さんで探してるんですけど、なかなか見つけることができません。
もう「オーズ」の準備でしょうかね・・・。
でも、、、オーズってなんだかダサイなぁ。
投稿: AnneMarie | 2010年8月29日 (日) 15時01分
仮面ライダーW、1~49まですべて見ました。
やっぱりまず配役に成功だったと思うし、ストーリーも単純だけど大人も楽しめるところがいいですね。
しかし、wがここまで人気だと次の「OOO(オーズ)」がコケそうな気がします。
この人気を保ち続けてくれるといいですね
投稿: おぷか | 2010年8月29日 (日) 12時59分