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2010年8月17日 (火)

本 「進化の運命 〜孤独な宇宙の必然としての人間〜」

進化論の論客として有名な科学者でアメリカのS・J・グールドがいます。
彼の著作で「ワンダフル・ライフ」という本の名を聞いたことがある方もいらっしゃるかと思います。
彼の言葉でよく引用されるのは、「生命のテープをもう一度再生したら、人類が存在するかどうかわからない」というものです。
我々人類がこのような状態で現在存在しているのは、様々な要因が偶然に重なった結果であって、もう一度同じように地球の歴史を繰り返したとしても、人類が存在するかどうかわからないといったものです。
ゆえに彼は「創造論」に対しては反対の立場をとっています。
「創造論」というのは、人間が猿から進化したというダーウィニズムを否定し、聖書に書かれているように人間は神が作ったということを主張している考え方です。
驚くべきことに、アメリカのいくつかのキリスト教保守が強い州では学校の授業でも「創造論」を教えているのです。

さて前段が長くなりました。
本著の作者はサイモン・コンウェイ=モリスというイギリスの科学者です。
彼のグールドの考えに反対し、「生命のテープを巻き戻しても、人間に似た生命は誕生してくるであろう」という主張です。
その際、彼が何度もあげる言葉が「収斂」です。
生命が進化するにあたっては分子的レベルから、理論的にはさまざまな組み合わせが考えられます。
そのパターンは莫大で、すべてのパターンを試してみたら、今までの宇宙の歴史があったとしても試しきれない数になります。
だからこそ「人類は孤独である」と主張する人々がいるのですが、本著の著者は実はすべてのパターンを自然は試しているのではなく、何かしらの方向性があると語っており、それが「収斂」であると言います。
地球上の様々な生物で似たような機能を別々の系統の生物が獲得するということがあります。
人間の眼と実はタコやイカの眼というのは大変似た機能を持っているということです(「並行進化」とどう違うのか僕はよくわからなかったですが)。
ここで行われているような特定の方向性を持った方向に進化するという「収斂」が起こっており、そのため人類のような生命が登場するのは必然であると言います。
グールドの説も彼の著作を読んだとき納得したのですが、こちらの説もなるほどと思いました。
確かに自然はすべてのパターンを順列組み合わせで試しているような感じはしない。
ある種の方向性があるのかもしれないなと思いました。
ここまではなるほどです。
でも最後はちょっと首をひねりました。
本著の著者はキリスト教の信者であるということで、ある種人類が必然的に誕生することへ、神の定めのようなことを書いています。
これはちょっと違う。
というより一緒に語ってはいけないのではないかと。
たぶん著者のモリスは、グールドが「創造論」を攻撃し、さらにはキリスト教的教義についても責めたてることへの不満があったのかもしれません。
グールドの学説と対抗する説を唱えるのはいいのですが、それと宗教をいっしょに語ると議論がややこしくなるだけのような気がします。
このあたり、もう少し考えてほしかったなと思いました。

この本自体はけっこう専門的で読むのにエネルギーがいります。
僕もすべてわかったような気もしてません。
ですので、上記解釈についても僕の勘違いとか思い違いもあるかもしれませんので、その点はご容赦を。

「進化の運命 〜孤独な宇宙の必然としての人間〜」サイモン・コンウェイ=モリス著 講談社 ハードカバー ISBN978-4-06-213117-9

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コメント

レスありがとうございます!

>完全なランダムではない、ある種の方向性を進化に与えているような

同感です。
今は量子進化学をはじめとして、そういう研究はたくさんありますよね。
福岡さんはリチャード・ドーキンスのブラインド・ウォッチメイカーのモデルをかなり批判していますが、福岡さんが『生物と無生物のあいだ』で追及しているような生物の創発現象は、ダーウィニズムと相反するものではないと思うんですよね。
ここら辺の真相は一応福岡さんにメールで送ったのですが・・・

>グールドの攻撃的なキリスト教批判
グールド以上にすごいのがドーキンスだと思います
哲学者にも喧嘩を売るような文章を書いていますし・・・
日本では実感できませんが、アメリカの教育事情ではおそらく進化論(ネオ・ダーウィニズム)をアグレッシブに啓もうしていかないと、インテリジェントデザイン説などにおしきられてしまうのではないでしょうか?

投稿: ゴーダイ | 2010年8月18日 (水) 13時05分

ゴーダイさん、こんばんは!

この本では進化について、ある種の方向性があるということを書いています。
これ自体は納得できることだなと。
けれどもそれと創造論はちょっと違う(これは著者もたぶんわかっていて、グールドの攻撃的なキリスト教批判への過剰な防衛態度だと思います)。
たぶん進化にはとても簡単なルール(それがなにか今はわからないにせよ)があって、そのルールに従い複雑な生物が生まれてきているんでしょう。
福島先生が「生物と無生物のあいだ」でおっしゃっているのは、生気論的な合目的性というよりは、個々の生物の機能だけを見るのではなく、全体としての生物がどのようにバランスを維持していくのか、それをいかに洗練された仕組みで行うかという点に着目しようということだと思います。
この「洗練された」は「効率的な」と言ってもいいかと思いますが、これがさきほどのルールになり、完全なランダムではない、ある種の方向性を進化に与えているような気がします。

投稿: はらやん(管理人) | 2010年8月17日 (火) 18時40分

こんばんは。
私も高校生の頃スティーブン・J・グールドさんの本にはハマりました!

私も進化論について自分のホームページで開設したのですが、この本は創造説と複雑系の自己組織化現象を強引に結び付けているのかもしれませんね。

これは磁石のSとNが引きあうのが神の意思によるものと言っているようなもので、もしかしたらそうかもしれませんが科学的な態度ではありませんよね。

『生物と無生物のあいだ』の福岡伸一さんもちょっとそっち系のこと(生気論など)を言っていたりするので、ロマンチックですけど、やっぱり科学のはなしではないと思います。

投稿: ゴーダイ | 2010年8月17日 (火) 18時25分

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 これ原題の『THE GREATEST SHOW ON EARTH(すごすぎる地球のショー)』より邦題『進化の存在証明』のほうが確かに内容にあってますね。  とりあえず昨日短い第1章を読みました。  いや~ [続きを読む]

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