本 「アメリカ第二次南北戦争」
作者の佐藤賢一さんはフランスの歴史物を多く書かれていますが、最近では他の国を題材にした小説についても幅を広げています。
佐藤さんの作品は基本的にはエンターテイメントですが、歴史や文化に対する洞察がかなり深く読んでいても非常に勉強になります。
本作で描かれるのは近未来のアメリカです。
アメリカはかつてのように南北にわかれ、内戦を始めてしまっています。
全般的に軽妙に描かれていますが、テーマとしてはアメリカ人の国民性、アメリカという国のアイデンティティというものを深く掘り下げています。
この物語では北部=合衆国、南部=連合国というように「二つのアメリカ」に分かれていますが、それぞれが主張していること、その中で「アメリカ」という国の真髄を描いています。
アメリカという国は若い国であり、歴史的な成熟度が足りないということはよく言われます。
他の国は長い歴史の中で、さまざまな苦難を乗り越え、大人の国として成熟してきたという過程があります。
アメリカという国は歴史が浅い上に、大きな力を持ってしまいました。
言うなれば、若い時にたまたま事業に成功し大きなお金を手に入れてしまったというようなイメージでしょうか。
国家というのは人々の集まりでありながらも、何かしら意志のようなものを持っています。
アメリカという国は若いがゆえのわがままさ、自己の正当性への自信、けれども若いことへの引け目、また成功してしまった故の申し訳なさみたいなものが渾然一体となっているものを持っているような感じがします。
そのあたりを佐藤賢一さんはこの作品で非常にうまく活写していると思います。
戦乱状態の無秩序さあたりは同じく佐藤賢一さんがフランスの百年戦争を描いた「赤目のジャック」に近い感じがしました。
あれほど重めではないですけれど。
佐藤賢一さんの作品は登場人物をしっかりと描くのはもちろんながら、さきほどあげたような歴史や国家そのものがもつ人格のようなものも描いていて、それがおもしろいのだと思います。
「アメリカ第二次南北戦争」佐藤賢一著 光文社 文庫 ISBN978-4-334-74757-2
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コメント
rose_chocolatさん、こんばんは!
佐藤さんの作品はおもしろいですよね。
「王妃の離婚」も読みました。
最近はフランス以外の歴史ものも手がけて調べものが大変だと思うのですが、けっこう数を書く方なのですごいなと思います。
投稿: はらやん(管理人) | 2010年5月 8日 (土) 20時23分
佐藤さん、よく読みます。 いいですよね。
歴史物が好きなんで、彼の作品はとても面白い。
「王妃の離婚」なんかはすごく好きです。
本書もチェックしてみたいと思います。
投稿: rose_chocolat | 2010年5月 8日 (土) 12時05分