「座頭市 THE LAST」 抜きたくない剣を抜かされる
久しぶりに試写会に行ってきました!
「座頭市」と言えば勝新太郎さんのイメージが強いですが、近年は北野武監督の「座頭市」や綾瀬はるかさん主演の「ICHI」などユニークな解釈をされているシリーズになります。
「THE LAST」というタイトル、また僕の好きな阪本順治監督なので期待して行ってきました。
阪本監督は僕は特に初期の作品が好きなんです。
「鉄拳」とか「王手」とか。
物語としては荒削りなところもあるのですが、それすらもエネルギーとしてしまうようなパワーを作品が持っていたと思います。
それは張りつめた緊張感とでも言いましょうか。
最近は熟練してしまったところもあって、阪本作品はややまとめすぎな感じがあるのも否めないのですけれど。
試写会では出演者の上映前に出演者の方々の舞台挨拶があったのですが、みなさん口々に撮影時にとても緊張感があったとお話しされていました。
観る側もそうですが、出演される方々も緊張感を感じるからこそ阪本順治監督の作品にはある張りつめた感じというのがあるのでしょうね。
本作はこのところ変化球の多かった「座頭市」シリーズにおいて原点回帰的な話でもあり、また阪本作品としても初期の作品に通じるようなストーリーであったと思います。
「座頭市」というシリーズは、本来は社会的弱者であり被差別者である側が、その中でももっとも差別されやすい視覚障害者である座頭市という存在を通して、差別者に痛撃を与えるという爽快感にあると思います。
しかし市というキャラクターは社会的弱者でありながらも、居合いの達人と意味では強者であるという点でひどく矛盾した立場に立つのです。
「七人の侍」などでも描かれるように、実は弱者は弱者なりにたくましく生きる術をみつけていく。
多少の犠牲を払いながらも頭をひっこめても結局生き延びるたくましさを持っています。
しかし市は強者であるという側面もあり、彼の存在自身が戦いを呼び込んでしまうのです。
彼自身は戦いたくないと思いながらも、戦いを彼が呼び込んでしまう。
抜きたくない刀を彼は抜かされる。
この悲哀が座頭市というキャラクターの真髄でしょう。
座頭市の物語と阪本監督は親和性が高いと思います。
初期の「鉄拳」などはまさしく現代の座頭市とも言える物語とみることができます。
主人公は元才能であるボクサーでありますが、事故により指を義手にします。
そういう障害を持ちながらも彼は再起を目指しますが、障害者を目の敵にする集団に付け狙われます。
彼の大事な人々もその集団に襲われ、彼は戦わざるを得なくなる。
彼が拳を振るうとき義手であるため、それには激しい痛みを伴います。
それでも大切な人を守るためすべてを犠牲にして拳を振るう。
これは哀しみながら人を斬る市というキャラクターに通じるように思えました。
これまで述べたように物語としては阪本監督との親和性がものすごくあると思います。
随所に出演者がお話ししていたような緊張感は感じました。
しかし初期作品にあるような荒削りなテンションはやはり感じなかったのも確かです。
あれは若さ故とも言えるのですが、ややそのあたりはもの足りなかったところでもあります。
また座頭市を演じていた香取慎吾さんは随所に非常にいい演技の場面もありました。
ただ彼の持つポジティブさ、明るさというのがどうしても拭いきれず、市というキャラクターが持つ悲哀といったところとの乖離があったように見えました。
このあたりは非常にもったいなかったと思います。
香取さんの演技がどうこうというより、キャスティングで彼を選択したというところでやはり市というキャラクターとの距離感をどのようにするのかといったところがやや曖昧になったような気がしました。
物語と阪本監督の親和性が高そうであっただけにやや残念です。
綾瀬はるかさん主演「ICHI」の記事はこちら→
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受信: 2010年6月13日 (日) 15時56分
» 『座頭市 THE LAST』 [ラムの大通り]
----最近、また邦画づいているようだニャあ。
『パレード』も『時をかける少女』も話さなかったのに、
なんでまた、この映画を…。
「やはり、これは話題作。
日本映画が生んだヒーロー、
あの座頭市をSMAP香取慎吾が演じるわけだから…」
----それって、あまりにもイメージが違う気がするニャあ。
「ぼくも観るまではそう思っていたし、
おそらく、公開されてからもそのことに話題は集中するだろうね。
この映画は、開巻早々、市は
愛する妻・タネ(石原さとみ)を
死闘の巻き添えで失ってしまう」
----えっ、そ... [続きを読む]
受信: 2010年6月13日 (日) 21時52分
» ■映画『座頭市 THE LAST』 [Viva La Vida! <ライターCheese の映画やもろもろ>]
SMAPの香取慎吾があの座頭市を演じた映画『座頭市 THE LAST』。
勝新太郎の名作がどんなふうになるのか、恐る恐る観に行ったのですが、これがどうして、なかなかの出来!
阪本順治監督の凝りに凝った演出も冴えわたっているし、カメラさん、音声さん、みんなが素晴らしい仕... [続きを読む]
受信: 2010年6月21日 (月) 06時19分
» 座頭市 THE LAST [迷宮映画館]
風景、背景、バックはよかった・・・のですが。 [続きを読む]
受信: 2010年7月 4日 (日) 19時59分
» 10-161「座頭市 THE LAST」(日本) [CINECHANの映画感想]
百姓にはなれなかった
“これが最後”と最愛の妻タネに約束し、死闘に臨んだ市。だが、その戦いが幕を閉じるかと思った矢先、タネが追手の刀によって命を落としてしまう。
悲しみと絶望に打ちひしがれる市だったが、タネとの最後の約束を守るため、もう人は斬らないと決意し、故郷の旧友・柳司のもとで静かな暮らしを送ることに。仕込み杖を置き、柳司一家と共に百姓として平和な日々を過ごす市。
しかし、村は極悪非道な天道一家に支配されており、百姓たちは一味に全てを搾取され苦しみ続けていた。そんな彼らに助...... [続きを読む]
受信: 2010年8月31日 (火) 00時42分
コメント
sakuraiさん、こんばんは!
そうですねー、座頭市というキャラクターはやはり勝新さんのものであるのかもしれません。
北野監督の「座頭市」も曽根監督の「ICHI」も変化球だったのは、オリジナルと同じ土俵では戦えないということだったのかもしれません。
本作はあえて原点回帰を図ったというところもあったのですが、やはりちょっと厳しかったような気がします。
確かに他に誰かふさわしい人がいるのかというと、やはり唸らざるをえないのですけど。
投稿: はらやん | 2010年7月 4日 (日) 21時15分
すんごく共感。まさにその通り。
阪本監督の目指すところと、座頭市のもつ精神は、非常にぴったりマッチなのですが、決定的に違ってたのが、市を演じた方のキャラクターでしたね。
やっぱ慎吾ちゃんじゃ、根はいい人オーラが出まくってましたね。
じゃ、誰がよかったかなあ・・と考えるのですが、誰がいいでしょうね~。
思い浮かばないんですよ。やっぱあれは勝新のものだったなあとつくづく。
投稿: sakurai | 2010年7月 4日 (日) 19時59分
michiさん、こんにちは!
香取さんは普段の若々しくてポジティブなイメージが強かったからでしょうか。
でも勝新太郎さんが座頭市を最初に演じたのは香取さんと同じくらいの年頃だったそう。
勝新、若いうちからどんだけ老けてたんだか・・・。
投稿: はらやん(管理人) | 2010年5月30日 (日) 16時04分
>市というキャラクターが持つ悲哀といったところとの乖離…
市のキャスティングに
賛否両論あるようですね。
どちらかというと、難色を示した人が多いのかな。
私は単純に、カッコイイ~と思って観てきたのですが
はらやんさんのレビューを拝見し、
なるほど。。。と思いました。
今度、勝新の座頭市もレンタルしてみようと思ってます!
投稿: michi | 2010年5月30日 (日) 10時07分