本 「犯人に告ぐ」
映画にもなりました「犯人に告ぐ」の原作小説を読みました。
読んでみると映画がかなり原作に忠実に作っていることがわかります。
ミステリー小説や警察小説は事件を解決することがひとつの物語の帰着点になります。
その過程において、犯人側の感情や動機などに語られますが、本作は犯人に対する描写が驚くほど少ないのが特徴です。
主人公巻島が以前担当し、取り逃がしてしまった誘拐事件の犯人ワシ。
そしてこの物語で巻島が劇場型捜査を行う男子殺害犯バッドマン。
彼らがなぜ犯行にいたるのかという心情というのは描かれません。
犯人像がつかめずに捜査を続けている捜査陣と同じように、読む側である読者も犯人に対する情報は持っていません。
本作は警察小説でありながらも、事件の解決が主題ではないのだと思います。
過去の自分の至らなさにより、重い十字架を背負ってしまった男を描くのが主題なのです。
若い頃の功名への欲、縄張り意識、組織の一員としてのしがらみにより、犯人の最接近していたにも関わらず取り逃がし、一人の少年を死に至らしめてしまったという悔恨を巻島は背負っています。
バッドマン事件では、巻島自身がバッシングを受ける立場になるにも関わらず、彼は黙々と捜査を続けます。
彼は何も言わず、その十字架を背負って歩くのです。
バッドマン事件は解決しました。
そして巻島は、以前解決できなかったワシ事件の被害者の少年の母親と会います。
そこで巻島から初めて口に出る思い。
淡々と冷静に劇場型捜査を続けていた巻島とは異なり、苦悶と悔恨に満ちた「すみませんでした」という言葉。
彼がずっと背負っていた十字架の重みを感じました。
読み応えのある作品だと思います。
「犯人に告ぐ<上>」雫井脩介著 双葉社 文庫 ISBN978-4-575-51155-0
「犯人に告ぐ<下>」雫井脩介著 双葉社 文庫 ISBN978-4-575-51156-7
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