本 「サクリファイス」
最近はエコブームからか、自転車の注目度が高くなっていて、通勤等で日常的に使う人も多くなってきたと思います。
そういった日常使いの自転車とは、真逆にあるのがスポーツとしての自転車競技、ロードレース。
世界的に有名な大会は「ツール・ド・フランス」で、こちらはニュースでご覧になったことが多いでしょう。
自転車ロードレースというのはチーム競技ですが、中でも他のチーム競技と異なるのは、チームのエースを勝利するために他の選手がいるということ。
ロードレーサーともなるとその速度は自動車並みにはなるので、その空気抵抗はかなり強い。
その状態で100キロも走ればたちまち体力は失われてしまいます。
そのためチームのアシストは、エースを勝たせるために風よけとしてその前を走ったりします。
またエースのバイクがパンクした場合、自分のタイヤを提供してでも、エースを走らせようとします。
まさにアシストはエースのための「サクリファイス(犠牲)」となるのです。
本作の主人公、誓(ちかう)はインターハイでもいいところにいけるほどの陸上選手でした。
けれども周囲の期待に応え、勝ち続けなければいけないプレッシャーを厭い、自転車競技に転向しアシストとなったのです。
スポーツと言うと一番をとることが目的と思われがちですが、すべての人がそれを求めているのではないと思います。
スポーツに限らず、勉強でもビジネスでも同じこと。
僕も実はあまり一番になるのは好きではありません。
注目を浴びるのがあまり好きではないのです。
ですので、誓の気持ちというのにとてもシンパシーを感じてしまいました。
誓はエースのサクリファイスになることで、自分も達成感を感じることができました。
けれども本作で起こる事件により、自分自身も誰かの犠牲の上に立っているということに気づきます。
そしてその犠牲のために、自分も飛び出していかなければいけないことにも。
僕も仕事をしていてそういうことに気づく時がありました。
デザインのディレクターをしていても、すべてを自分でやることはありません。
デザイナーでございというほど我も強くないので、チームとしてやっていく方が好きなのです。
でもチーム外の人と何かを打ち合わせするとき、僕が背負っているものを強く感じる時があります。
いっしょにやってくれている人たちのためにも、ここは前に出なくてはいけないと思うときが。
前に出るのは好きではないのですが、自分のためだけにではなく、前にでなくてはいけない時があるんですよね。
「犠牲」は与えられた方がしっかりとそれを受け止めなくてはいけない、そういう責任があるということを、誓も学んだのだと思います。
本作、スポーツ小説としても、青春小説としても、ミステリーとしても読み応えあります。
とはいえ取っ付きにくいところもないので、お薦めの作品です。
続編「エデン」の記事はこちら→
第3作「サヴァイヴ」の記事はこちら→
「サクリファイス」近藤史恵著 新潮社 文庫 ISBN978-4-10-131261-3
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