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2010年2月 6日 (土)

本 「100年予測 -世界最強のインテリジェンス企業が示す未来覇権地図-」

地政学という学問分野があります。
これは地理的な位置関係の国家間の政治、関係に影響を研究する学問です。
「坂の上の雲」の秋山真之が影響を受けたアメリカのマハンの海洋国家論なども地政学的な考え方と言えるでしょう。
例えば日本という国を地政学という視点で見た場合はどうなりますでしょうか。
日本とは四方を海で囲まれ、またその領土内に現代の産業に不可欠なエネルギー資源(石油や天然ガス等)や原料資源を持たない国家です。
ですから必然的にそれらの物資は国外から輸入せざるを得ないわけです。
そうなると日本にとって一番良い状態というのは自由に安全に外国と貿易ができる状態というわけです。
現在日本が平和憲法を掲げ、戦争放棄している意味、また日米安保ということにこだわるのはそこにあると思います。
けれども何かしらの原因により貿易が出来ない状態になった場合、日本は呼吸ができない状態になると言ってもいいでしょう。
それが起こったのが太平洋戦争であるわけです。
日本が満州などに進出しようとした理由の一つは資源の確保でありました。
その行為に対し列強が経済封鎖をかけてきた時、日本は呼吸できない状態となり海上の支配権を持つために太平洋戦争へと突入したのです。
とはいえ、物量的に太平洋を支配することのできない日本に対し、それができるアメリカが勝利することは必然であり、だからこそ現在において対米関係というものを政権が重要視することになるわけです。

長々と書きましたが、本著はそのような地政学的なものの見方により、今後100年の世界の趨勢を予想するというものです。
現在の中国は日の出の勢いであり、今後アメリカと中国が超大国として君臨すると予想する方は多いですが、本著では中国はそこまでの勢いはもてないと予想します。
これもなるほどと思わせるところがあります。
また21世紀中旬に日本とトルコの連合が、アメリカと戦争を行うというショッキングなことも書いていますが、それに至る論旨の組み立てはそれなりに説得力があります。
その予想が現実的であるかどうかは別にしても、ここで出てくる20世紀の制海権にというものを拡張した考え方である言わば制宙権のような考え方が出てきます。
これはおもしろい。
マハンのシーパワー論にもあるように海洋を支配できるパワー(軍事力)を持つ国が世界の覇権を握るとされます。
かつてはスペインであり、その後イギリスのであり、現在においては制海権はアメリカが持っています。
本著では21世紀においても依然として制海権はアメリカが握り続けると見ているので、アメリカの覇権時代は続くと言っています。
ただそこでさきほどの制宙権といえる考え方がでてきます。
これはすなわち宇宙空間での活動の覇権をどの国が握るかということも重要だと書いています。
確かに戦争やさまざまな国際活動は情報こそが命であり、現代のインテリジェンスにおいて、偵察衛星やGPSなど宇宙を介して得られる情報が多いわけです。
例えば僕たちが日常的に使っているGPSはアメリカの衛星による情報を利用しています。
もしアメリカと日本との関係が深刻なものとなったとき、アメリカはそれらの情報を利用させるでしょうか。
そうなった場合、日本は自前でそういう設備を持たなくてはいけないわけです。
そういうことを想像すると、宇宙での覇権が今後の地政学的なものの見方で重要だというのは正しいかもしれません。

実際に本著の予想通りに世界情勢が動くかどうかはわかりませんが、知的刺激として日々の世界各国の動きをニュースで見る時に地政学的なものの見方で眺めてみてもいいかもしれません。

「100年予測 -世界最強のインテリジェンス企業が示す未来覇権地図-」ジョージ・フリードマン著 早川書房 ハードカバー ISBN978-4-15-209074-4

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