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2010年1月17日 (日)

「板尾創路の脱獄王」 怪優板尾創路を板尾創路が撮る

お笑い出身の方が映画監督に進出するというのは、北野武さん、松本人志さんなど最近は多く見られますが、板尾創路さんもとうとう本作で監督デビューをしました。
板尾創路さんと言えば、現在はお笑いだけではなく、個性派俳優として様々な映画作品で怪演しフィールドを広げているので期待も高まります。
ただややもすると映画出身でない監督の方は、自分の個性を前に出そうとする傾向があり、どうも映画としてのストーリーや構成が独りよがりになることがあります(それがいい方に転ぶこともあります)。
さて、板尾監督の場合はいかに?と思って観にいきましたが、思いのほかきちんとされていたシナリオ、構成で、デビュー作にしてはしっかりしているという感じを受けました。
これは映画監督の山口雄大さんが脚本に参加していることも大きいのでしょうか。

何度も捕まってはその度ごとに脱獄し、そしてまた捕まるということを繰り返す謎の男、鈴木雅之(板尾創路さんが主演も務める)。
彼はいつしか「脱獄王」と呼ばれることになります。
看守長金村(國村準さん)は脱獄を繰り返す鈴木に興味を持ちます。
なぜ鈴木は脱獄を繰り返し、そしてわざわざまた捕まりやすい逃走ルートを選ぶのか。
鈴木は何から逃げているのか。
まさに金村の疑問は観客である僕たちが物語から感じるものと同じであり、それがストーリーを引っ張っていきます。
そういう意味では、本作は非常にオーソドックスな作りであると思います。
けれども鈴木を演じる板尾さんは、一言も話さずあまり表情を表さない役柄にも関わらず、あいかわらずのシュールな怪演を見せてくれます。
板尾さんが演じる役というのは何か日常からズレているような不穏な感じを与えます。
それが微妙な居心地の悪さ感を引き起こし、映画全体に不思議な雰囲気を纏わせるのです。
その点は板尾さんは希有な俳優であると言っていいでしょう。
そして本作は俳優板尾創路のことをよくわかっている、監督板尾創路が撮っているということで彼自身が持つ不穏な雰囲気が作品にもよく出ていると思います。

<ここからネタバレなので注意>

「鈴木!お前、何から逃げているんだ!」
金村はずっと気になっていたことを後半に、鈴木本人に問いかけます。
けれどもそれに鈴木は答えません。
その後、挿入される回想で、鈴木は受刑者の母を持ち、刑務所で生まれ(母は自分を産み死んでしまいます)、また父親も警察に追われる犯罪者であったということがわかります。
そのため養護施設で育てられ、折檻されて物置等に閉じ込められることもしばしば。
たぶん彼にとって、いわゆるシャバの世界の方に自分の居場所を見いだせなかったのでしょう。
母は死に、父は行方不明、そして周りは敵意のある目で彼のことを見たのでしょう。
唯一彼が世界と繋がっている部分は、どこかで生きているであろう父の存在。
たぶん父は警察に追われていたので、どこかの刑務所に収監されているであろうと彼は考えたのでしょう。
彼にとってシャバこそ牢獄であり、そして牢獄の中こそが家族と繋がることができる唯一の場であったのでしょう。

最後のオチは笑いました。
このあたりお笑い出身監督らしい見事な落し方でした。
板尾監督には今後も活躍してくれることを期待したいと思います。

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コメント

sakuraiさん、こんにちは!

板尾さんはほんとに他の人にはない存在感がありますよね。
怪しい感じの俳優さんはたくさんいますが、彼独自の怪しさと言いましょうか。
だからいろんな監督さんが起用したがるのでしょうね。
初監督作品ということでまだこなれていないところもありましたが、作品自体にも板尾さんの怪しい感じが出ていて良かったと思います。

投稿: はらやん(管理人) | 2010年5月 8日 (土) 06時15分

もう、怪しすぎますよ。
なんともいえない独特な雰囲気がありますが、彼じゃなきゃならない!というのが凄いと思います。
最初は「く空中庭園」で、この人すげーーー!と思ったのですが、見るたび、見るたび、独特なオーラを発してますね。
映画としちゃ、まあまあの出来でしたが、十分彼らしさを滲み出してたと思いますわ。

投稿: sakurai | 2010年5月 7日 (金) 14時34分

KLYさん、こんばんは!

初監督という感じがせずに、しっかりと作ってあったと思います。
板尾さんは怪しい人が似合いますよね(褒め言葉です)。
ラストはやはり吹き出してしまいましたよね。
このあたりはさすがです。

投稿: はらやん(管理人) | 2010年1月18日 (月) 21時12分

この作品、結構よかったなぁって思います。オーソドックスで無理に奇をてらってないけれど、板尾さんらい奇妙な雰囲気はしっかりあって。やっぱりまずはきちんとオーソドックスに作れてからでしょうね、自分らしさ云々を主張するのは。
でもラストのオチはやっぱり芸人さん、それも板尾さんのオチですよ。ぷっ!ってなったし。(笑)

投稿: KLY | 2010年1月17日 (日) 19時37分

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