本 「火天の城」
先だって公開された映画「火天の城」、原作小説を読みました。
戦国時代を描く作品は数々あれど、安土城の建築を通して描いてみせるという発想はとても新鮮でした。
原作小説の方も安土城の建築、そしてその一大プロジェクトである岡部又右衛門を主人公とするところは変わりません。
けれども物語の狙いは異なっているように思いました。
映画の方は、又右衛門という頭領にかなりフォーカスを絞り込んでいます。
そして安土城建設という巨大プロジェクトを成し遂げようとする、言わばプロジェクトX的な物語になっていると、先日の映画についての記事でも書きました。
原作小説では安土城建設を描きつつも、そのテーマというのは、栄枯盛衰、諸行無常といったようなものであったと思います。
又右衛門たち宮大工が、そして織田信長が何百年もの年月を耐える城を築こうとし、それを実現した安土城ですが、皆さんがご存知の通り、信長は本能寺で討たれ、そして安土城も焼かれてしまったのです。
映画は安土城が困難を乗り越え建設されたところで終わりますが、小説では安土城が焼かれるまでを描きます。
映画はラストには達成感の余韻が残りますが、原作はある種の空しさが残ります。
作られたものはいつかは滅びる、そんなことが伝わってきます。
また映画では又右衛門とその妻田鶴の夫婦の関係が深く描かれますが、小説は又右衛門とその息子以俊の親子関係にフォーカスがあたっています。
このあたりには作られたものはいつしか滅びても、そこに込められた精神は受け継がれていくといった永遠性が語られているように思いました。
映画と小説、題材は同じでもそのテーマは異なるっていうのは、おもしろいですね。
映画をご覧になった方は、小説を読んでその違いを楽しむというのも一興だと思います。
「火天の城」山本兼一著 文藝春秋 新書 ISBN978-4-16-773501-2
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