「ラブファイト」 グラブで話そう
シルバーウィークもいよいよ終わり。
連休前に仕事がいいところでキリがついたので、連休中はなんの憂いもなく映画三昧で過ごせました。
観たいと思っていた公開中の映画も一通り観れたので、本日はゆっくりと家でDVD観賞です。
さて本作「ラブファイト」ですが、公開中は上映館が少なかったため(たしか東京はバルト9だけだったような)、見逃していました。
こちらは林遣都さんと北乃きいさんのダブル主演ということで、なんとなく「タッチ」のような青春スポーツ恋愛ものであると思っていたのです。
十代をターゲットとした青春恋愛もののベタベタした感触の作品に食傷気味でもあったので、スルーしていました。
林さんはけっこう好きな俳優さんなので、いい機会なので観賞です。
さて感想はというと、想像していたより全然良かったです。
ジャンルとして括るとするならば、先ほど書いたように青春スポーツ恋愛ものになるのだと思いますが、ベタッとしたところはないですし、それこそいい年をとった大人が観てもけっこう共感できるところがあるのではないでしょうか。
立花稔(林遣都さん)と西村亜紀(北乃きいさん)は幼なじみ。
稔は小さい頃からいじめられっこで、それをケンカっぱやい亜紀が守るという関係がずっと続いています。
中学生になった今でも稔は不良たちに絡まれます。
美少女となった亜紀といつもいっしょにいるのでつき合っているのではないかと邪推されるわけです。
いつものようにいじめられ、それを見つけた亜紀がガツンと不良たちをやっつける。
そのあと亜紀にはいつも弱虫となじられます。
あるとき、ふとしたきっかけで稔はボクシングを始めます。
また稔を好きという同級生も現れ・・・。
稔がボクシングを始めたということを知った亜紀も、また同じボクシングジムに通い始めます。
こう書くといわゆる「タッチ」的な三角関係のドラマが展開されるかと思いますが、さにあらず。
稔は小さい頃からずっといじめられっこでずっと逃げてばかりいました。
ボクシングを始め、それが楽しいと感じるようになり、尊敬するジムの会長大木(大沢たかおさん)と初めてのスパーリングをします。
大木は稔のフットワークの良さに才能を感じていました。
けれども稔は初めてのスパーリングをしてみても、まともに相手の顔に向かってパンチを繰り出すことができませんでした。
練習でサンドバッグ相手にはしっかりとできていたのにも関わらず。
稔は人を殴る(映画の中では大阪弁なので「どつく」と言っていた)ことができなかったのです。
人を正面からどつくということは、それは相手ときちんと向かい合うということ。
稔はボクシングだけでなく、ずっと相手の思いに向かい合うということを避けてきていたのだと思います。
いつもずっと一緒にいて守ってくれた亜紀の思い。
二人ともそれは恋愛感情ではないと言いますけれど、二人とも無意識にそれを感じていたわけです。
弱虫な自分、守られているばかりの自分、亜紀といっしょにいるとそれをいつも意識してしまうのを稔は避けよう避けようとしていたのだと思います。
好きである相手を守ることができず、守られているばかりの自分。
情けない自分。
活き活きとして通っていたジムも、亜紀が来るようになってからは練習に行くのもさぼるようになってしまいました。
亜紀は直情型であり、ズバズバと何でも言ってしまい、思ったことはすぐに実行するタイプです。
たぶんずっと好きだった稔を守るためにがんばってきたのだと思います。
けれどそうがんばればがんばるほど、稔は離れていこうとし、避けようとします。
それがもどかしく、イライラとしてしまっているのです。
稔がずっと弱虫でいたならば、ずっと守っていられる。
でも亜紀も稔に守ってほしいときがあります。
けれど彼が強くなってしまったら、自分は稔に必要なくなってしまうかもしれない。
その間で亜紀の心も揺れるのです。
相手と正面から向かい合うこと、それは自分をもまた正面から見つめること。
ずっとそういうことから稔は逃げていたのです。
相手と正面から向き合う時、言葉はほんとうはいらないのです。
必要なのはじっとしっかりと相手を見て、逃げずに相手をしっかりと受け止めること。
大木はボクシングの心得として「グラブで話す」と稔に言います。
これは相手の思いをしっかりと正々堂々と受け止めることが、相手にも自分の思いを伝えられるということなのでしょう。
そういう大木も若い時に、順子(桜井幸子さん)という恋人と別れるということを経験しています。
ちょっとしたことでのすれ違い、けれども二人ともそのままにずっと過ごしてきてしまいました。
この二人の恋愛についても若い二人と並行して描かれます。
大木も順子は相手に自分の思いをぶつけるということをしてこなかった関係のような気がします。
大人なのかもしれないですけれど、ずっと自分の気持ちを正面から相手に伝えるいうことをずっと避けていたのです。
大木も順子も、稔に自分たちの姿を見たのでしょうか。
そして亜紀のまっすぐな気持ちを眩しく感じたのでしょうか。
彼らの姿を見ることにより、大木と順子も自分たちの関係もあらためて見直すことができるようになります。
これら二組の関係が複奏的に語られ、互いに影響し合いながら、自分たちの関係、そして自分自身を見直していく様子がうまく構成されていたと思います。
このあたりが、大人が観ても共感できる部分ではないでしょうか。
僕自分も稔と同じようなタイプだったりします。
なんとなく深く人とつき合うと、なんだかその思い(相手のも自分のも)みたいなものに圧倒されてしまうように感じたりします。
だから無意識的にあまり深くつき合わないように、と思っているところがあったりもするような気がしました。
そういう意味でけっこうこの稔というキャラクターに共感を持ってしまったのです。
監督は成田出さんで、前作の「ミッドナイトイーグル」はあまり僕としては評価をしていないのですが、本作はとても良かった。
「グラブで話す」というように、とても重要な場面で登場人物たちは言葉を少なく、その仕草や表情だけでの感情の交流があります。
それらを丁寧にじっくりと長回しで、やさしくすくいあげるように撮っていくところがとても心地よかったです。
具体的には、稔と亜紀と大木の公園のシーン、大木と順子の病院のシーン等ですが、長回しの中で登場人物の感情の揺れ動きというのがまるで自分がその気持ちを味わっているように伝わってきました。
とても丁寧でいいシーンだったと思います。
最後に北乃きいさんの演技は本作が初めて観たのですが、けっこう上手だったの嬉しい驚きでした。
林遣都さんもそうですが、とてもフレッシュな感じがしました。
林さんは運動神経がいいのか「ダイブ!!」などでもしっかりとスポーツシーンも演じていて、本作でもボクシングのシーンではとても上手に演じていましたが、北乃さんもなかなかのもの。
でもただ若いというだけでなく、ボクシングやケンカのシーン等でもしっかりと役になっている感じがしたので素晴らしい。
これから要チェックとしたいと思います。
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