「しんぼる」 松本人志、それは天才的なカンを持つ男
天は二物を与えないとはよく言いますが、時々二物を与えられている人がいたりします。
お笑いタレントとして揺るぎない地位を獲得している、本作「しんぼる」の松本人志監督もそのような人かもしれません。
初監督作品「大日本人」は少々荒削りながらも、他の誰かでは思い浮かばないようなアイデアを力技で成立させた作品にしたと思います。
本作はドキュメンタリータッチであった前作とは異なり、とても緻密に構成されているように思えます。
格段に映画監督として上手になっているように見えます。
メキシコのあるプロレスラーの一家のエピソード。
そして真っ白い部屋に閉じ込められた松本人志監督自らが演じる男のエピソード。
その白い部屋はなになのか、なぜ閉じ込められているのか、そもそも男は何者なのか。
まったく関係を見いだせない二つのエピソードがどのように結びついていくのでしょう。
結果的にはものの見事にそれらのエピソードは結びついていて、前作とは格段に構成力が上がっていることがわかります。
「大日本人」と同様にテーマを深読みしようとすればできますが、そんなにはご本人は小難しくは考えてないかもしれない、けれどやっぱり考えているかもしれないと思わせる懐の深さを感じました。
インタビューなどを読んでもそれほど考えているわけではないとおっしゃっています。
松本監督は言うなれば、天才的にカンの鋭い人と言えるかもしれません。
さきほど書いたような構成力も、きちんと映画的な方法論的に身に付けた上でのものではないような気がします。
それは松本監督が天性で持っているカンなのではないでしょうか。
そもそもお笑いというのは、台本があるにせよ、どのように笑いをとっていくかというのは芸人のカンによるところが多いかと思います。
お笑いライブのように目の前にお客さんがいる場合は、その反応を見つつ、送り手も反応することも可能でしょうが、映画となるとそうはいきません。
お客さんが観る時には、作品はすでに作り上げられているからです。
ですから映画はお客さんを導いていくストーリー構成がとても大事になります。
しかし松本監督はそれを理論でクリアしているわけではないような気がします。
これはやはりストーリーを組み上げる持って生まれたカンであるような気がします。
構成力は映画の現場にずっといて作品作りに関わっていくうちに次第に身に付けていくということはあると思います。
けれども松本監督はまだ二作品目。
二作品目にしてこの構成力は持って生まれたものであるような気がします。
本作では笑いの要素も一般的にも受け入れやすいストレートさを持っているように感じました。
けれども松本監督らしいナンセンスな笑いも散りばめられています。
そしてそれらのいろいろな笑いも、いわゆる関係ないと思われていた「前振り」が効いている構成された笑いになっていたりします。
笑いの要素、ストーリーを構成する要素が次第に次第に関係しながら、そしてボルテージを上げながら、ラストにむかって昇華されている様は見応えあります。
これはやはり天才的なセンスなのでしょう。
天才的なカンなのでしょう。
ラストでツン抜けた、新たな白い世界。
結局、男はなにものであったのでしょうか。
その答えは明示されていません。
パンフレットでもそれを監督自身が解説するのはおもしろくなくなることと言っています。
観た方が感じた通りに、自由に解釈していいともおっしゃっています。
ですので最後に僕なりの答えを書いておきます。
これは新たなる天地創造を描いた物語、僕はそう感じました。
タレントが映画監督をやるとき、「主張したいこと」が全面に出ることが多いような気がします。
これは別段悪いことではないのですが、ややもすると独りよがりになっていることも多いようにも思います。
松本監督がすばらしいのは主張らしい主張がない、にも関わらずこれは松本監督以外には撮れないと思わせるような個性があるところです。
これは凡百の人では持ち得ない才能であるのではないかと思うわけです。
松本人志監督作品「大日本人」の記事はこちら→

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nbsp; ダウンタウンの松本人志が前作『大日本人』に続いてメガホンを取った監督 2作目。 白くて天井が遥かに高い部屋の中で目覚めた男が、部屋から出ようとして いろいろ試行錯誤する様を描く。メキシコのとある町で暮らす覆面レスラーのエスカルゴマン。 彼はいつも..... [続きを読む]
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スベッてる話。
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» 『しんぼる』 ('09初鑑賞123・劇場) [みはいる・BのB]
☆☆★-- (5段階評価で 2.5)
9月12日(土) 109シネマズHAT神戸 シアター8にて 16:05の回を鑑賞。 [続きを読む]
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映画「しんぼる」についてのレビューをトラックバックで募集しています。 *出演:松本人志、他 *監督:松本人志 感想・評価・批評 等、レビューを含む記事・ブログからのトラックバックをお待ちしています。お気軽にご参加下さい(^^... [続きを読む]
受信: 2009年9月22日 (火) 14時13分
» 『しんぼる』 [ラムの大通り]
「いやあ。まいったまいった。
いったい、この映画、みんなどういう紹介しているんだろう?」
----あらら。頭抱えちゃって。
これって松本人志の『大日本人』に続く監督第二作だよね。
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「いやいや。
それが、今回も最近はやりの“ここは喋らないでね”のお願いが…。
しかもいくつもある上に、
そのすべてが映画のキーポイントとなる部分。
結局は何もしゃべれなくなってしまう」
----あっ、だからか。
7月に試写が始まっ... [続きを読む]
受信: 2009年9月22日 (火) 16時47分
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『松本人志監督第二作─。 想像もつかない ”何か”が起こる…。』
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受信: 2009年9月22日 (火) 17時04分
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「しんぼる」製作:2009年、日本 93分 監督:松本人志 脚本:松本人志、高須 [続きを読む]
受信: 2009年9月22日 (火) 19時42分
» しんぼる [映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子公式HP]
何しろ配給会社からネタバレ禁止命令が出ているので、どうレビューを書いたらいいのか悩む。核心に触れる部分はすべて秘密なのだ。それが核心と呼べるものかどうかは別として。とりあえず、ストーリーはこんな感じだ。それがストーリーと呼べるものかどうかは....... [続きを読む]
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想像もつかない”何か”が起こる・・・。
■メキシコのとある町、家族と幸せに暮らすプロレスラー、エスカルゴマンはいつもと変わらぬ朝を迎えていた。しかしその日、妻は夫であるエスカルゴマンがいつもとは少し様子が違うことを感じていた。それは今日の対戦... [続きを読む]
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受信: 2009年9月23日 (水) 11時07分
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{{{ ***STORY***
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松本人志監督第二作―。想像もつかない“何か”が起こる…。
メキシコのとある町。家族と幸せに暮らすプロレスラー、エスカルゴマンはいつもと変わらぬ朝を迎えていた。しかしその... [続きを読む]
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受信: 2009年9月25日 (金) 07時59分
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(2009年・松竹/監督:松本 人志) 「大日本人」に次ぐお笑いタレント・松本人志の監督第2作。 一言で言って、“わけの分からん映画”である。 メキシコのとある町で、1人の覆面プ... [続きを読む]
受信: 2009年10月 6日 (火) 23時22分
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出演:松本人志(あの叫び声。きつい)デヴィッド・キンテーロ ルイス・アッチェネリ
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受信: 2009年10月12日 (月) 20時57分
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松本人志監督作品第2弾。
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』はダメでした。
今回は前以上に評判がよろしくないみたいですね。
でも観てみないとね。
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いつものように試合に向かった。
し... [続きを読む]
受信: 2010年7月25日 (日) 23時54分
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あらすじ奇妙な水玉のパジャマを着た男は、目を覚ますと四方を白い壁に囲まれた部屋に閉じ込められていた・・・。感想「日本では、どうしてもダウンタウン松本の先入観を持って見ら... [続きを読む]
受信: 2011年6月13日 (月) 23時25分
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松本人志の「シネマ坊主」は日...... [続きを読む]
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監督・出演 松本人志
ロッテルダム国際映画祭で絶賛されたという。
いや〜、面白かったです。
全く異なる2つのストーリーが繋がった時から、これからの「鬼才!松本人志監督」を予感させる作品となりました。
後半までバカバカしかっただけに「なるほど〜」と唸らせ...... [続きを読む]
受信: 2013年8月 4日 (日) 13時09分
コメント
こんにちは!
松本人志さんは、独特のタッチがあるので、万人向けじゃないような感じがしますが、やはり天性のものはあるような感じがしますよね。
本作などはかなり実験的なところもあり、そういう不条理感がダメな人は全くダメだとは思いますが、僕はけっこう気に入った作品です。
投稿: はらやん | 2012年4月30日 (月) 09時02分
しんぼる は良い映画ですね。さや侍は演出に意を用いて計算されているし 大日本人も 過去のどのシャシンにもない独自さが魅力を放っている。まともな観る目を持った人間が少ないのか悪評を多く耳にするが、乱 影武者 どですかでん も評価出来ない日本のは相手にできない。しっかり勉強してしっかり生きていれば判ると思うのだけれどもねえ。
投稿: | 2012年4月30日 (月) 01時54分
かとちゃんさん、こんばんは!
1作目も尋常じゃない感じがありましたが、本作はより才能がでていました。
僕も評価されていい作品だと思います。
投稿: はらやん(管理人) | 2009年10月 3日 (土) 18時39分
松本人志にこんな作家性があったとは!
おそろしい人だ。
今日あまり期待しないで観に行ったら、
ビビリました〜。
もっと評価されてもいい映画だと思います。
素晴らしい。
投稿: かとちゃん | 2009年10月 1日 (木) 20時39分
シムウナさん、こんばんは!
興行的には厳しいでしょうね。
それでも前作よりは一般に受け入れられやすいわかりやすさを持っていると思います。
2作目にして、わかりやすさと、作家性を持っているっていうのはスゴいなと思ったりもします。
投稿: はらやん(管理人) | 2009年9月23日 (水) 18時58分
Agehaさん、こんにちは!
>何がそんなに変わったんでしょう?
まずは映画として、きちんと構成されているということでしょうか。
映画出身でない監督さんというのは、えてして語りたいことだけを語りがちです。
ですので構造として破綻しているときが多々あるのですが、本作はそういうのがあまりないんですね。
だからといって松ちゃんらしくないかと言えば、十分松っちゃんらしくって、そのあたりのバランスのとり方が絶妙な気がします。
これを理屈でやっていないのだったら、やはり才能ということなのかもしれません。
投稿: はらやん(管理人) | 2009年9月23日 (水) 17時25分
TB有難うございました。
松本監督の第2弾となりました。
才能や感性は他の人にはないものを
持っているなって思うのですが、
ただ、興業的に成立していかないと
今後の作品が苦しくなる予感がしています。
この作品を受け入れる人は、多くはない
気がしました。
今度、訪れた際には、
【評価ポイント】~と
ブログの記事の最後に、☆5つがあり
クリックすることで5段階評価ができます。
もし、見た映画があったらぽちっとお願いします!!
投稿: シムウナ | 2009年9月23日 (水) 11時36分
未見でコメント失礼します。
大日本人は全く見る気がしないまま現在に至るので比べようもないんですが
今回何故か見に行ってる人が多くてしかも好意的なレビューが多い。
何がそんなに変わったんでしょう?
お笑い芸人さんは
コントを次々生み出すにあたって、人を世間を観察してるハズで
笑わす為のノウハウも演技力も必要で
時代や流行を瞬時に切り取って表現する事のできるひとが生き残る。
松ちゃんはシネマ坊主っていう本も書いてるから映画もそこそこ見てるハズ。
どれくらい映画に携わろうとしてるかはわからないけど2作目ですでに才能発揮だとしたらやっぱりすごい?
投稿: Ageha | 2009年9月23日 (水) 11時01分
ノラネコさん、こんにちは!
そう、前作はおっかなびっくりな手探り状態な感じは伝わってきました。
でも本作は2作目にして堂々と自信があふれる感じを受けました。
このあたりの飲み込みの早さ、度胸などは、彼が第一線で活躍し続けている所以かもしれないですね。
彼は5本撮ると言っているようですが、次はどんな感じになるのでしょうね。
投稿: はらやん(管理人) | 2009年9月23日 (水) 09時18分
私も前作よりも楽しめました。
前はおっかなびっくり迷いながら作ってる様な感じがあったのですが、これは吹っ切れてる。
悪意があるのも良いと思います。
パジャマ男は天地創造の力を持ったかもしれないですが、別に創造主そのものになった訳ではないのですよね。
あのオチには凄くイヤ~な本当の創造主の悪意を感じました(笑
投稿: ノラネコ | 2009年9月22日 (火) 23時01分