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2009年8月 1日 (土)

本 「東京下町殺人暮色」

こちらの作品は宮部みゆきさんのかなり前の作品ですが、その後彼女の作品の中で繰り返し扱われる要素がやはり出ています。
ひとつは罰せられなければ何をやってもいいという意識を持つ者たちの存在です。
特に彼女の作品では少年が未成年だから罰せられないという意識で、残酷な犯罪を行うということが描かれることがあります。
彼らは恨みが募ってとか、やむにやまれずというような感情ではなく、相手のことに対する意識すらなく人を殺します。
本作の中では、それは想像力の欠如という言い方で指摘されています。
こういうことをしたら相手は痛いだろうとか、いやな思いをするだろうというあたりまえの想像力が欠如している。
だからこそ残虐なことでも易々とできてしまう。
このような悪があるということを度々宮部みゆきさんは描いています。
またひとつは賢者の存在です。
これは大概、彼女の作品では年老いた老人という人物として描かれます。
本作ではハナがそれにあたるでしょう。
彼らは特別な人生を歩いていたわけではありません。
平凡な人生を生きてきながらも、長年生きてきた中で、人の気持ちを斟酌する術を身につけてきた人たちです。
だいたい穏やかな人として描かれます。
また宮部さんの作品のなかでしばしば舞台になるのが下町。
本作もそうですが、下町というのはそれこそ江戸時代から続く町であり、暮らす人と人というのが今よりもずっと親密であったところです。
現代的な感覚で言うと他人のプライバシーのところまで踏み込んでいたり、おせっかいであったりするのかもしれませんが、逆に困った時にでも助けられる間柄とも言えます。
そこにモザイクのように新規の住民たちが入ってくる。
昔ながらの共同体に新しい人々が入ってくる。
彼らはお互いに顔の見えない人々であります。
互いに顔を見えないということは、相手の考えていることもわかりにくくなるのは当然です。
そういう環境がもしかしたら最初に書いたような、相手のことを想像する力のない若者を生み出してきているのかもしれません。
本作は1990年に発表された作品ですから、それからもう20年近く経っています。
報道される陰惨な事件を見るにつけ、想像力のない人々が着実に増えてきているような気がして、恐ろしくもあります。

「東京下町殺人暮色」宮部みゆき著 光文社 文庫 ISBN4-334-71944-9

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コメント

SOARさん、こんばんは!

ごめんなさーい、やっぱり僕の間違いでした。
ご指摘ありがとうございました。
タイトルも直させていただきました。

投稿: はらやん(管理人) | 2009年8月16日 (日) 20時11分

こんにちは♪
文庫版での改題は「下町」追加だけだと思っていました。
家にある古い文庫版(光文社文庫)も「暮色」なのですが、
どうやらその後さらに「景色」に改題されたのかな。
いや~失礼しました。

投稿: SOAR | 2009年8月16日 (日) 11時00分

SOARさん、こんばんは!

そうですねー、まさに宮部さんの基本スタイルという感じです。
僕は初めて読んだ宮部さんの作品が「模倣犯」だったんですよ。
かなりドキドキして読んだ覚えがあります。
あの作品でも主人公の一人は年配の方でしたよね。

タイトルですが、文庫版の方では改題したようですよ。
読んだのが文庫版の方だったので、そっちに倣いました。

投稿: はらやん(管理人) | 2009年8月 1日 (土) 21時10分

社会派ミステリとして凄惨冷酷な場面もありながら、一方で登場人物たちにユーモアを持たせ、最後は爽やかにまとめるあたり、宮部みゆきの基本スタイルの原点のような作品ですよね。

プロローグのショッキングな描写も後の「模倣犯」などを連想しますし、おっしゃるように少年犯罪の残虐性を取り上げること自体今思えば(少々地味目ながら)ほんとに彼女らしい作品だと思います。
(あ、タイトル末尾は「暮色(ぼしょく)」かと・・・)

投稿: SOAR | 2009年8月 1日 (土) 14時21分

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