本 「となり町戦争」
「となり町戦争」はハードカバーで出版された時も、映画化された時も気になっていたのですが、読んでいませんでした(映画も未見)。
本作は三崎亜記さんのデビュー作です。
僕はずっとこの方は女性だとずっと思いこんでいたのですが(「アキ」という響きから)、男性だったんですね。
本作は日本のような日本でないようなところが舞台になります。
主人公北原が住んでいる舞方町はある日、となり町と戦争事業を始めると発表します。
そして北原は職場がとなり町にあるということから、町より偵察を任命されるのです。
「戦争」は現在でも世界のどこかで行われていて、そのことはメディアやインターネットなどを通じて知ることができます。
そういう意味では「戦争」の情報は昔よりは身近であると言っていいのかもしれませんが、肌感としての「戦争」は実は遠くなっているような気がします。
本作でも主人公が、となり町と行われている戦争事業に対して感じる違和感が述べられています。
その違和感は大概の一般の人々が感じるものであるでしょう。
けれどその違和感が何なのかと言われると実はうまく説明できないものなのです。
本作でも語られる「戦争」のイメージ。
巨大なきのこ雲、黙々と行軍する兵士たち・・・。
そういうイメージは何かステレオタイプであります。
それがリアルであるのかどうかわからないまま「戦争」とはそういうものと疑いなく思っています。
この物語の中で遂行される「戦争」はあまりに粛々とシステマティックに行われているため、ほんとうに「戦争」をやっているのかというふうにも思えます。
けれども確実にその「戦争」により、死者は出ている。
何かその粛々と行われている「戦争」のリアルさのなさ、みたいなものが余計にリアルな感じを受けます。
僕たちは、「戦争」に関しての情報を今までで一番知りやすい時代に生きていますが、けれどもその「リアルさ」は知っていないのだと感じます。
悲惨で陰惨な部分も「戦争」の一部分。
けれど「粛々と」行われている部分も、「戦争」であり、それは日常的になってしまうところが恐ろしい感じもします。
そういう「戦争」へのリアルな感覚のなさを「となり町との戦争」という極めて日常的な次元に下ろしたことによって、表そうとする三崎亜記さんの目のつけどころがいいと思いました。
これから三崎さんの作品、いろいろ読んでみようかと思います。
「となり町戦争」三崎亜記著 集英社 文庫 ISBN978-4-08-746105-3
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コメント
SOARさん、こんにちは!
本作を読んで三崎亜記さんは少し気になりました。
今度「バスジャック」、読んでみますねー。
投稿: はらやん(管理人) | 2009年8月30日 (日) 05時51分
不思議な世界観に引き込まれる作品ですよね。私は映画も観ましたが、この作者のよさは文章の世界で表現してこそのように思います。
「バスジャック」という中短編の最初の話がまた傑作です。ぜひ!
(宮部作品の改題の件、きちんと調べずにコメントしてしまい、あいまいなまま納得してしまいました。お恥ずかしい・・・)
投稿: SOAR | 2009年8月29日 (土) 10時22分