「しあわせのかおり」 見えない心配りがしあわせの材料
おいしい料理というのは、とてもしあわせな気分にしてくれるものです。
そしておいしい料理というのは、見えないところに細やかな気遣いがあるものなのです。
貴子(中谷美紀さん)が王さん(藤竜也さん)に料理を教えてもらい始めたときに、まず言われることは「同じ大きさに切りなさい」ということ。
これはお料理を習い始めるとまず教えてもらう基本中の基本。
同じ大きさに切ることによって、すべての素材にまんべんなく熱を入れることができます。
とても細かいことなのですけれど、これで料理の仕上がりが違ったりするものです。
また本作では料理の下ごしらえの場面がとても丁寧に描かれます。
料理をテーマにした映画は数々ありますが、こんなに下ごしらえをきちんと描いているのはあまり他にはないような気がします。
王さんのお料理のおいしさのベースになるのは、特製のスープ。
それは鶏のひき肉から丁寧に丁寧に作ります。
少しずつ水を入れながらしっかりとひき肉をこね、肉の4倍量の水をいれたところでやっと火にかけて作るのです。
食べてくれるお客さんのことを思って、丁寧にお料理の下ごしらえをするからこそ、王さんのお店のお料理はおいしいのでしょう。
有名な料理人が作っているから、高級な食材を使っているからお料理はおいしいのではなく、細やかな心配りがあるからこそ、そのお料理はおいしく、そしてしあわせな気持ちにしてくれるのです。
たぶん人と人の関係も同じことを言えるのかもしれません。
見えない心配りやがんばりがしあわせな関係を作ってくれる。
王さんが、貴子のために児童相談所の担当に怒ってくれたこと。
貴子が一生懸命料理を学ぼうとして努力していること。
それは人に見えるものではないのですが、その想いは確実に相手に伝わっています。
見えない心配りがしあわせの材料なのかもしれません。
なにしろ、本作で映し出されるお料理がどれもおいしそう!
王さんのお店の全メニューを食べてみたい!
僕は食品メーカーでずっと広告やデザインの仕事をしているので、それこそお料理を映す・写すことについてはかなり経験を積んでいるのですが、そういう目で観てもかなり上手にお料理を映していると思いました。
特にあの「玉子とトマトの炒め物」がおいしそうなことといったら!
玉子のふんわりとした感じが絶妙です。
映画というのは映像と音だけでお料理のおいしさを伝えなくてはいけないのですが、それこそかおりと味が伝わってくるようです。
中華風の玉子の炒め物って自分でやると上手くいかないんですよね。
貴子が最初うまくできなかっったように、炒り卵みたくなっちゃうんですよ。
あれは強い火でしっかりと熱を与えたたっぷりの油と、手早くいため上げる手際良さがいるんですけれど、なかなか上手にできません。
それでも自分で料理をして上手くできたなというときは、ほくそ笑んでしまいます(料理本を見ながらじゃないとできないですけどね)。
本作でおいしい料理を食べたときの登場人物は「おいしい!」とか「うまい!」とかグルメ番組のようなことは野暮なことは言いません。
実際おいしい料理を口にいれたときっていうのは、じんわりと笑みをうかべてしまうものなんですよね。
「ああ、おいしいなあ」って心の中でつぶやきつつ。
最後に余談です。
「何か食べたいものある」って言われると、僕は大概「中華がいいなあ」と言います。
ラーメン・餃子などのB級グルメから、飯店系まで、中国料理はなんでも好き。
以前仕事(中国料理視察というとてもおいしい仕事でした)で1週間ほど中国に行ったことがあるのですが、当然のことながらずっと中国料理。
でも全く飽きることはありませんでした。
中国料理って油っぽいというイメージがあって毎日食べるのはちょっとという方もいらっしゃると思いますが、胃もたれするなどということはありませんでした。
よっぽどフランス料理のほうがもたれます。
どっちかというと体調が良くなったと感じたほどです。
さすが「医食同源」、漢方の国だ、と思ったのでした。

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この映画は、お料理シーンが満載です。中華なべでジュワーッとおいしそうに炒められる具材、皿に盛り付けられるときに油がパチパチする音、毎日変わる定食のメニューの豊富さ。
こんなにおいしそうな料理が食べられるのなら、私も毎日“小上海飯店”に通いつめたいと思わせます。
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「しあわせのかおり」は実においしそうな映画であった。この映画に出てくる「小上海飯店」のおすすめは、3種の定食。「海定食」2種類「山定食」1種類。
このうちのトマト卵炒めの「海定食」を作った。
メニューは次の通り。
トマト卵炒め
揚げた白身魚甘酢あんかけ
酸ラータンスープ
カニ焼売
ザーサイ
ごはん
メインは、トマト卵炒め。この料理はこの映画のテーマに関わり、主人公二人にとって大切な料理。
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» ≪しあわせのかおり≫ [日々のつぶやき]
監督:三原光尋
出演:中谷美紀、藤竜也、八千草薫、田中圭、渡辺いっけい、平泉成
「金沢のある中華料理屋小上海飯店はいつも賑わっている。
店主の王さんが一人で切り盛りしている小さな店だが本格上海家庭料理は大人気。蟹シュウマイにを取り扱いたいという大手... [続きを読む]
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» 『しあわせのかおり』'08・日 [虎党 団塊ジュニア の 日常 グルメ 映...]
あらすじデパートへの出店要請の為に、シングルマザーの貴子は金沢にある小さな中華料理店の小上海飯店に行くが中国出身の年老いた料理人の王さんに断られ・・・。感想日本映画プロ... [続きを読む]
受信: 2010年9月29日 (水) 20時25分
コメント
kiraさん、こんばんは!
こちら劇場公開時に観たかったんですけど、タイミングが合わなくて・・・。
劇場で観ていたら、そのまま中国料理屋に直行したくなったと思います。
中国料理の炒めものでトマトって意外な感じがしますが、卵とけっこう合うんですよねー。
シンプルなんですけど、自分だとうまくいかないんですよ、べちゃべちゃしちゃって。
相手のことを考えて見えないことをきちんとやる心配りは大事ですよね。
お料理ってそういうのがとてもよく表れるのでしょう。
投稿: はらやん(管理人) | 2009年5月11日 (月) 21時45分
こんばんは!
TB,有難うございます♪
昨年の邦画マイベストに入れた作品です。
仰るとおり、見えないちいさな大切なことを
繰り返すこと、
その先にある温かいものを信じさせてくれる、素敵な作品でした。
キャストもベストポジションだったと思います
とろとろ卵とトマトの炒め物、お気に入りです
投稿: kira | 2009年5月11日 (月) 00時14分
rose_chocolatさん、こんにちは!
「海定食」「山定食」は魅力的でしたよね。
あんなメニューがでるお店だったら、毎日通ってしまいそう。
卵料理はやはり火力ですよね。
強火で一気にやらないとふわふわにならないんですよね。
本作を観ると中国料理が食べたくなってしまいます。
あ、よだれ・・・。
投稿: はらやん(管理人) | 2009年5月 6日 (水) 08時05分
これは食べ物が魅力的でしたね。 「山」とか「海」とか。 ああ、たまりません。 あの定食みんな食べてみたい!
中谷さんも藤さんも、この映画のためにお料理の基本動作を徹底的にお勉強されたのがよくわかります。
実はこれを観た後に、よせばいいのに「トマトと玉子の炒め物」を作ってみたんだけど、若干炒り卵系入ってるんで、とてもご紹介はできません(笑) 卵料理は火力がないと難しい(涙
中華は外食でも当たり外れが少ないので、続けて食べても飽きないかもしれません。
投稿: rose_chocolat | 2009年5月 5日 (火) 23時51分