「ヘブンズ・ドア」 自分の死に向かい合うその時に
「鉄コン筋クリート」のマイケル・アリアス監督の初実写作品です。
オリジナルはドイツ映画の「ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア」で、こちらは残念ながら未見です。
「鉄コン筋クリート」は大好きな作品なので、その監督がどのように実写を撮るのかとても興味がありました。
アニメも実写の両刀使いというと押井守監督、庵野秀明監督などがあげられます。
お二方ともアニメでも実写でも強烈な個性、スタイルを出しますよね。
同じようにマイケル・アリアス監督の実写作品も彼の作品の持つ空気感というものが出ていたと思います。
突然に余命数日と宣告された28歳の男、青山。
幼い頃よりずっと入院していていつ死ぬかわからない少女、春海。
本作は、死というものを間近に感じる二人が、海を目指すロードムービーです。
映画や小説等の作品で死がとりあげられることは多いですよね。
けれど普段生活としていて、自分の死というものを実感しながら生きているかというとそうではありません。
当然、知っている人の死というのはあったりするので、それが悲しいとかそういう気持ちは味わうこともあります。
けれど、自分の死というとなぜかとたんにリアリティがなくなってしまいます。
なんとなく普段の生活では自分の死というものはフィクションのような気もしてしまいます。
多くの人がそうではないでしょうか。
だから病気などで死に向かい合っている方からすると、気持ちを本当に理解してもらっているとはなかなか思えないのかもしれません。
28歳の男と14歳の少女、普通に暮らしていれば話す場面などそうあるわけではありませんし、そこに共感などもあまりないでしょう。
けれど青山と春海は、二人とも自分の死というものに向き合っている。
生へのあきらめ、死というものに対しての恐れ、そのような彼らの本当の気持ちをわかってくれるのは、やはりそれに向き合っている人たちだけなのかもしれません。
だから普通はない、シンパシーのようなものを二人はお互いに感じたのでしょう。
青山は、観ている僕たちのように毎日をいつもどおりに過ごしてきていたのに、突然、自分の死というものに直面します。
夢も潰え、人生をもうあきらめていると思っている時に、直面する自分の死。
たぶん彼は海への旅を始めたときはまだそれをリアリティのあるものとは思っていなかったのでしょう。
けれども彼の人生のゴールとも思える、海に近づいていく中で、段々とそれはリアリティを増していったのだと思います。
海の近くの自分の生家の前で青山は「死にたくねえ」と口にします。
彼はそのとき自分の死というものに初めて直面したのだと思います。
そのとき春海は「大丈夫だよ」と母親のように彼の肩を抱きます。
彼女にとってたぶん死というものはいつもそばにあるものだったのでしょう。
春海はずっと死というものをリアリティのあるものと感じていたのだと思います。
だから青山の死への恐れというものを彼女は本当にわかることができた。
それがわかったうえで、それをむかえようとする青山の心を、静かにやさしく包み込んだのです。
春海によって青山は天国のドアをくぐるときを、とても安らかな気持ちで迎えることができたのだと思います。
いつか自分も、自分の死というものに向かい合う時がくるはずです。
その時に彼らのように安らかに迎えるようになれたらいいなと思いました。
音楽を「鉄コン筋クリート」に引き続き、Plaidが担当。
これがとてもいい。
なんとも言えぬ空気感が、マイケル・アリアス監督の作風にとてもあっているような気がします。
久しぶりにサントラが欲しくなりました。
マイケル・アリアス監督作品「鉄コン筋クリート」の記事はこちら→

| 固定リンク
トラックバック
この記事へのトラックバック一覧です: 「ヘブンズ・ドア」 自分の死に向かい合うその時に:
» 「ヘブンズ・ドア」レビュー [映画レビュー トラックバックセンター]
映画「ヘブンズ・ドア」についてのレビューをトラックバックで募集しています。 *出演:長瀬智也、福田麻由子、長塚圭史、大倉孝二、和田聰宏、黄川田将也、田中泯、三浦友和、他 *監督:マイケル・アリアス 感想・評価・批評 等、レビューを含む記事・ブログからのトラック..... [続きを読む]
受信: 2009年2月 9日 (月) 13時21分
» ヘブンズ・ドア [映画君の毎日]
■ストーリー■突然余命わずかだと宣告された、28歳の勝人(長瀬智也)は、やはり長くは生きられないという14歳の病弱な少女春海(福田麻由子)と出会う。幼いころから病院暮らしで海を見たことがない春海のために、勝人は「天国じゃさ、みんな海の話をするんだ」と語り、二人で... [続きを読む]
受信: 2009年2月10日 (火) 08時13分
» ヘブンズ・ドア/長瀬智也、福田麻由子 [カノンな日々]
松雪泰子さんの主演映画で『余命』という作品が公開中ですけど、実はこの映画も「余命モノ」なんですよね。これって偶然なんでしょうか?『鉄コン筋クリート』のマイケル・アリアス監督による初実写映画で原案はドイツのヒット映画『ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア』という....... [続きを読む]
受信: 2009年2月11日 (水) 10時28分
» ヘブンズ・ドア [映画鑑賞★日記・・・]
公開:2009/02/07製作国・年度:上映時間:106分鑑賞日:2009/02/11監督:マイケル・アリアス出演:長瀬智也、福田麻由子、長塚圭史、大倉孝二、和田聰宏、黄川田将也、三浦友和+あらすじ+突然余命わずかだと宣告された、28歳の勝人(長瀬智也)は、やはり長くは生きられない...... [続きを読む]
受信: 2009年2月11日 (水) 15時20分
» 天国ではみんな海の話をするんだ。~「ヘブンズ・ドア」~ [ペパーミントの魔術師]
お前も天国のドアを叩いてんだな。 長瀬くんのせりふがやたらかっこいいなと思ってたら 元ネタ「ノッキンオンヘブンズドア」からの 引用がけっこうあったんですね。な~んだ。(こらこら) 余命3日、脳腫瘍でいつ死んでもおかしくない状況の勝人。 余命1ヶ月、心臓病と骨..... [続きを読む]
受信: 2009年2月12日 (木) 04時42分
» 【ヘブンズ・ドア】 [日々のつぶやき]
監督:マイケル・アリアス
出演:長瀬智也、福田麻由子、三浦友和
「いきなり余命数日を告げられた28歳の青山勝人は入院した病院でここ数年病院から出たことのないという少女春海と出会った。春海も自分の間もなく迎える死を知っていた。
海が見たことがないという... [続きを読む]
受信: 2009年2月12日 (木) 17時56分
» ヘブンズ・ドア ★★★ [えいがのはこ。]
柚木「入院中の長瀬が、ベッドの下から前にいた病人が残した酒瓶を見つけて、喜ぶんだけど…」
楠本「それで喜べる?。世界中の子供たちを笑顔にして、初めて自分も喜べるんでしょ。」
柚木「楠本くん、スケールでかっ!!でさ、それ見て思い出した事があって。祖父が入院し... [続きを読む]
受信: 2009年2月13日 (金) 12時37分
» [映画]ヘブンズ・ドア [落とし穴には気をつけろ!]
試写会に行ってきました余命三日のマサト(長瀬智也)と余命1ヶ月のハルミ(福田真由子)が、死ぬ前にやりたいことを叶えながら、海を見に行くロードムービーですが、予想外に面白かったです
この二人、成り行きで行動をともにするものの、だんだんと深い絆で結ばれていきます。兄と妹のようでいて、姉と弟のようでいて。マサトのダメっぷりとハルミの凛とした感じが生きてます。恋愛ではなく友情なのが清清しい感じ。二人を取り囲む風景はとても美しくて、生きているって楽しいことだというメッセージが伝わってくるよう。余命わずかな人... [続きを読む]
受信: 2009年2月14日 (土) 19時05分
» 【映画】ヘブンズ・ドア [新!やさぐれ日記]
▼動機
本文中に長々と記載
▼感想
センスの良く、やさしい映画
▼満足度
★★★★★★☆ いいかも
▼あらすじ
突然余命わずかだと宣告された、28歳の勝人(長瀬智也)は、やはり長くは生きられないという14歳の病弱な少女春海(福田麻由子)と出会う。幼いころから病院暮らしで海を見たことがないという春海のために、勝人は「天国じゃさ、みんな海の話をするんだ」と語り、二人で海を目指すことにする。
▼コメント
非常にセンスの良く、やさしい映画だった。
やさしいと言うのは難しいの反対ではな... [続きを読む]
受信: 2009年2月15日 (日) 00時02分
» ★★★★ 『ヘブンズ・ドア』 [映画の感想文日記]
2009年。アスミック・エースエンタテインメント/フジテレビジョン/ジェイ・ストーム。
マイケル・アリアス監督。
数日前にオリジナル版のドイツ映画、『ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア』を見たばかりで、しか... [続きを読む]
受信: 2009年2月15日 (日) 08時50分
» ヘブンズ・ドア [いい加減社長の日記]
公開中の「余命
」と同様に、「命」を扱った「ヘブンズ・ドア
」。
「余命
」は、あまりにも重そうでパスしたが、「ヘブンズ・ドア
」には、そんな感じを受けなかったので。
前日の夜まで休みだと気づいていなかった水曜日の午前中に、急遽鑑賞^^
「UCとしまえん
」... [続きを読む]
受信: 2009年2月15日 (日) 09時10分
» ヘブンズ・ドア [Akira's VOICE]
迷惑行為が無ければ二重丸。
[続きを読む]
受信: 2009年2月15日 (日) 15時15分
» 『ヘブンズ・ドア』 [京の昼寝〜♪]
□作品オフィシャルサイト 「ヘブンズ・ドア」□監督 マイケル・アリアス □脚本 大森美香 □キャスト 長瀬智也、福田麻由子、長塚圭史、大倉孝二、和田聰宏、黄川田将也、田中泯、三浦友和、SACHI、霧島れいか■鑑賞日 2月11日(水)■劇場 TOHOシネマズ川崎■cyazの満足度 ★★★(5★満点、☆は0.5)<感想> かつて僕のお気に入りの1本でもあった、ドイツ映画の『ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア』の日本でのリメイク版。 当時、結構ドイツ映画は勢いがあって内容は違うが『バンディッツ』や『ラン・ロー... [続きを読む]
受信: 2009年2月16日 (月) 12時09分
» ・・・何でもありなの?『ヘブンズ・ドア』 [水曜日のシネマ日記]
余命わずかな28歳の青年と14歳の少女が海を見る為に旅をする物語です。 [続きを読む]
受信: 2009年2月16日 (月) 20時59分
» ヘブンズ・ドア・・・・・評価額1400円 [ノラネコの呑んで観るシネマ]
「鉄コン筋クリート」で鮮烈な監督デビューを飾った、マイケル・アリアスの第二作は実写作品。
不治の病に冒された若者と女子中学生の逃避行... [続きを読む]
受信: 2009年2月20日 (金) 16時12分
» 「ヘブンズ・ドア」&「007/慰めの報酬」 [こたえがあるなら]
今日は現在公開中の2作の感想をUpします。 見た方、おられますか? [続きを読む]
受信: 2009年2月21日 (土) 12時29分
» ヘブンズ・ドア [いとしこいし ーいとしいこいしいものごとのおぼえがきー]
ヘブンズ・ドア
2/14(土)TOHOシネマズ
空とか雲とか海とか雨とか夕陽とかとかとか
じーんとせつなくさせるよな
やわらかい空気を感じるよな
茨城じゃないよな
だからと云ってどこだかもわからんけど
ぼんやりとしたやわらかい映像がキレイだった... [続きを読む]
受信: 2009年2月21日 (土) 19時23分
» ヘブンズ・ドア [映画通信シネマッシモ☆プロの映画ライターが贈る映画評]
アメリカ人監督がドイツ映画を日本映画としてリメイクするという不思議な経緯はさておき、オリジナル同様、風変わりなロード・ムービーに仕上がっている。余命わずかと宣告された28歳の勝人と、同じく死期が迫った14才の少女・春海は、盗んだ車で海を目指す旅に出るが、その....... [続きを読む]
受信: 2009年2月22日 (日) 23時54分
» 映画:ヘブンズ・ドア [よしなしごと]
2/7に公開され、近くの映画館ではもうすでに上映終了が近づいている・・・。麻生内閣級に人気ない映画なの?というわけでヘブンズ・ドアを観てきました。 [続きを読む]
受信: 2009年3月 1日 (日) 17時06分
» 映画 「ヘブンズ・ドア」 [ようこそMr.G]
映画 「ヘブンズ・ドア」 [続きを読む]
受信: 2009年3月 8日 (日) 00時17分
» 「ヘブンズ・ドア 」新しい「何か」を見せて欲しかった [soramove]
「ヘブンズ・ドア 」★★★
長瀬智也、福田麻由 主演
マイケル・アリアス監督、2008年、106分
「ごくたまにだけれど、
期待しないで見た映画がすごく良くて
その余韻に映画好きの喜びを感じることがある、
元ネタはまさにそんな映画だった、
そしてこのリメイクは悪くは無いけど、
元ネタが持っていた圧倒的な喪失感を
薄めてしまったのが残念だった」
色々あってたどり着いた海、
人は言葉を失くす、
時間が映れば色も変わる、
けれど寄せては返す波を
ただ見てるだ... [続きを読む]
受信: 2009年3月 8日 (日) 12時12分
» ヘブンズ・ドア [日っ歩~美味しいもの、映画、子育て...の日々~]
ヘブンズ・ドア スタンダード・エディション [DVD]
¥2,670
Amazon.co.jp
28歳の勝人は、勤務先をクビになった挙句、脳の腫瘍が見つかり、余命3日と宣告されてしまいます。病院で、長期間入院していて、あと1カ月しか生きられないといわれている春海と出会い、春... [続きを読む]
受信: 2009年11月 3日 (火) 08時50分
コメント
ノラネコさん、こんにちは!
そうですね、外国人にありがちな異世界のような日本ではなかったですよね。
でも普通の日本の街並、田舎を映しているのですけれど、なんとなくファンタジーのような感じもしました。
リアルさみたいなものはあまり狙っていないような気がしました。
どちらかというともっとファンタジー的なもの、「鉄コン筋クリート」の宝町に通じるような世界を感じました。
投稿: はらやん(管理人) | 2009年2月22日 (日) 09時40分
マイケル・アリアスは、日本人より日本的な映画を撮るなあと感心してしまいました。
ただ、やや生真面目過ぎた様な気がします。
物語が元々漫画チックな上に、映像はアニメーション並みに作りこまれて、人間までもがアニメキャラの様にステロタイプだったので浮世離れして感じてしまいました。
オリジナルはもう少しコメディ色が強く、アバウトな印象だったので、そういういい加減な所があれば、生っぽさが出たかもしれません。
ビジュアルセンスはさすがの仕上がりでした。
投稿: ノラネコ | 2009年2月20日 (金) 16時23分
マサルさん、こんにちは!
「ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア」は評判いいですよね。
今度観てみようかな。
本作の方はか設定はオリジナルからかなりいじっています。
僕はけっこう好きでした。
機会がありましたら是非。
投稿: はらやん | 2009年2月 8日 (日) 13時19分
「ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア」のほうは最近観ました。すっごく良くて、かなりのお気に入りです。「ヘブンズ・ドア」はそのリメイク版とのことですが、設定を見る限りはかなり元ネタとは違う感じですね。ちょっと見てみたい気になっています。
投稿: マサル | 2009年2月 8日 (日) 00時45分