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2009年1月24日 (土)

「クローンは故郷をめざす」 SFを通して行う「人間とは何か?」という思考実験

予告を観てどうしても観たくなった作品。
僕はSF好きなのですが、こういうテーマの作品は特に好き。
日本で特に映像作品でSFというと、宇宙を舞台にとか、タイムトラベルとか、特撮的・SFX的な表面的な映像表現ばかりに注目がいってしまいがちですが、本来的にはSFはそのような表層的なものではないと思っています。
SFとは皆さんがご存知の通り、サイエンス・フィクションの略です。
つまりSFとは科学を題材にし、どのような思いもよらぬ世界や未来を空想・仮想できるかというところがそのおもしろさなわけです。
そしてそのような仮想=ifの世界を通せば、人間というものとは何かという哲学的な問いを発し、考えることができます。
なぜならそういう仮想世界を設定することにより、人間というものを構成する要素で変わるもの変わらぬもの、というものを、つまりは人間の本質というものを認識しやすくなるからです。
つまり、SFというものは「人間とは何か」という問いについてのシミュレーションを行うための、便利なツールになるのだと思います。
このような映画で有名なものだと「2001年宇宙の旅」などはまさにそういう作品だと言えるでしょう。
こちらでは人間の進化そしてそれが行き着く先、それをコンピューターという人工的な精神との対比によって描こうとしています。
本作「クローンは故郷をめざす」ではクローン技術というものがシミュレーションを行うためのツールになっています。
再生された肉体、そして死ぬまでの記憶を持つクローンは、生前の人間と同一なのか、否か?
そこで発せられるのは人間とは何か?という問い。
これは人が自己というものを認識した時から、つまりは人間として覚醒した時から、自らに問うている命題でしょう。
宗教や哲学といったものは、その問いに答えるための思考によって生み出されたものだと思います。

人間の本質とは?
それは僕たちが触ることができる肉体なのか?
それともこのように思考している精神なのか?
思考を宿している脳なのか?
その脳に記録されている記憶という情報なのか?
いや、肉体や精神活動とは異なる霊魂のようなものなのか?
人間の本質と言っても、それがどこにあるのか、何ものなのかという答えは今までも様々なものが提示され続けました。
本作の中でもこれらの問いへの明確な答えはありません。
宗教や哲学などの精神的な学問と、いわゆるハードな現代的な最先端の科学というものは全く別方向に向いているようなイメージがあります。
けれども物理学や生物学などの学問が発達すればするほど、人とは何か?世界とは何か?という問いにいきつくような気がします。
究極の物理学がたどり着く先は宇宙創世の謎ですし、生物学が発達し本作のようなクローン技術が開発されたとき、それは生命倫理に至ります。
けれどそこまでは現実的には達せていません。
上記のように、まだ成立しない空想的な科学を用いてifの世界を描こうとするSFというジャンルは、哲学するための思考実験なのかもしれません。
日本の実写の映像作品で、このような人間を問う思考実験のようなタイプの映画は少ない気がしていますので、本作は貴重だなと思いました。

監督の中嶋莞爾さんはまったく存じ上げない方だったのですが、このような作品を作る方がいるとは嬉しかったです。
一般的に受ける作品だとは思えませんが、押さえた色調の映像、淡々とした長回しは、先に書いたような哲学的な思考を邪魔しない淡々とした語り口でした。
音や音楽の使い方も非常に神経を使っていたように感じ、不思議な情感が感じられました。
中嶋監督には今後もこのような作品を撮っていっていただきたいです。

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コメント

rose_chocolatさん、こんにちは!

観られましたかー。
地味めな映画なので仕方がないのかもしれないですが、公開館少なすぎですよね。
僕は職場が近いので帰りがけに行きやすかったですが。

石田えりさん、真に迫る演技でしたよね。
慟哭のシーンのあとの魂が抜けてしまったようなところも同じように母親の心情がよくでていました。
僕もちょっと母親のことを思い出してしまいました。
どうも息子というのは、出てしまうとなかなか家に戻らないもので・・・。
不義理しているなあと。

投稿: はらやん(管理人) | 2009年2月28日 (土) 14時49分

すべりこみセーフって感じで鑑賞できました。1館上映はキツい。。。

どうしても石田えりさんの演技に目が行ってしまいますね。
かけがえのないものを失うことの慟哭、あれは観ていてちょっと辛かった。
でもそれだけ深い想いがあるからこそ、記憶の遺伝子の中に刻み込まれると自分は信じています。

投稿: rose_chocolat | 2009年2月24日 (火) 11時48分

rose_chocolatさん、こんにちは!

ミッチーファンなんですねー。
本作のミッチー、よかったですよ。
抑えた演技で。
本業は歌手ですけれど、彼ははじけた演技から、抑えた演技まで幅広いですよね。
というより普段から及川ミッチーっている芝居をしている感じはしますけれど。

投稿: はらやん(管理人) | 2009年1月25日 (日) 15時20分

及川ミッチーファンなんでこれは大いに気になってるんだけど。
先日『プライド』っていう映画を見て(ミッチー出てます。これすごかった)、その後に『クローン・・』行こうかと思ったんですけど移動が間に合わず断念。なんで1館しかやってないんじゃ~~! って暴れたいw
予告なんかも、従来の彼のイメージとは違う感じで、クールっぽいんでますます惹かれますね。でも観に行けないかなあ。。。 涙

投稿: rose_chocolat | 2009年1月25日 (日) 13時26分

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受信: 2009年2月 1日 (日) 01時26分

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受信: 2009年4月12日 (日) 23時05分

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